276 ______ ‐2nd part‐

文字数 1,352文字

 オレも、自分本位の角度から、本音で答えさせてもらっちゃおう。

「いえ、勿論オレは黙ってますよ。オレだって、このセイレーンたちをつくり出すのを、バイト代もらって手伝った人間なわけだし、町中から吊るし上げられるなんて真っ平ですもん」

「だねー」

「でも、遅かれ早かれ悪い噂がぶり返しそうですよね? 工事が終わって、また、この階段がぬけ道として開放されれば、さっきみたいな、凄い目に遭う人が何人も出ることになるんだから」

「工事が完了して、ビルの全部がちゃーんと稼動し始めたら、さっきほど強力な高周波では、滅多に唄わなくなるー」

「そうなんですか?」

「第一、彼女たちは賢くてー、ちゃーんと情況を把握して、四体の誰がリードして唄うか、どーんな歌声にするかを決めてる。何より彼女たちが、お互い攻撃し合わないよーになってるからこそ、ボクがあの位置を導出できたー」

「……まいりますね、賢いんだ? やっぱ……」

「ここを通りぬける人人の中でー、楯クンを立たせた位置に誰かが、それもじーっとして、ちょうどセイレーンたちの唄いだすタイミングにいる確率なんてー、ボクの計算なら、多くて年に二回あるかどーかだね」

「……でも、オレが昨日の朝に、下の道路で体験したような現象はどうなの? やっぱり、その高周波が正体なんでしょうけれど」

「あれはー、テラスの外側へと照射された高周波による磁場の乱れが原因だねー。下への階段口にある、羽撃きのポーズをしたセイレーンの仕業のよーだけど」

「あぁ、あの……」
 まったく。オレが一番気に入っているセイレーンにやられたってわけかよ。

「建設中のビルに、設置され始めたソーラパネルが蓄積する余剰電力を、高周波に変えて放出してるだけだからー。プレハブがとり壊される来週には、配線も設計どーりに整えられて、やっぱり滅多に起こらなくなるー。電力が余ったら、電力会社に買いとられちゃうしー」

「……そっか。ケーサツが動き出すまでには、至らないってわけですね」

「ただ、遠くへ方向ーも決めずに、色んな種類の電磁波は発射し続けるんだけど、違法電波の発信源だと特定されないよーに、その量も長さも区区(まちまち)だからねー。近隣への影響もー、楯クンが初めて聞いた、老婆の声くらいのレヴェルでしかなくなるー」

「そう言や、あれって何で聞こえたんです? それもオレは老婆の声だったのに、葉植さんには若い女の声だったんだよね? それも、凄く残虐な言葉が聞こえたんだ、

穿

とか。このセイレーンたちって、そんな汚いことまで言っちゃうの?」

「ウーン。可聴音を発するのは、プレハブの後ろの方に立ってる、見返りポーズをしたセイレーンなんだろーけど。おそらくー、声を聞いた所にあった、お宅の塀の構造に起因するねー」

「……塀、ですか? また」

「コンクリートうちっ放しで、門扉までが半円筒形に奥まってたー。しかも装飾として、大きな凹面鏡みたいに、滑らかな球面で削ってある。あれこそがも~、パラボラアンテナ的な役目を果たすんだねー」

「まぁ、言われれば確かに……」

「拡散し入り交じっていた音声を、はっきり再合成するし、塀と閉ざされた門扉の全体で、ウィスパリング‐ギャラリー‐モードになる条件をつくりあげるー」

「ん~? 何ですかその、ひそひそ画廊モードって」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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