282 _________________ ‐2nd part‐

文字数 1,244文字

 けれどやっぱり、巧く弾ききれてはいないみたい。

「ボクを裏切っちゃ、イヤだからね楯クン」

「……葉植さんも、です。オレに話すと新たな惨事を招きそうなことや、オレが納得し易いようにするための曲弁は多少あっても、またオレを騙してたりはしていませんよね?」

「騙してなんかないよ……欺誑(ぎおう)でも冗談でもなく、楯クンは、ボクの生まれて初めての親友なんだから」

 葉植さん……明るさが不充分でイマイチ判然としないけれど、そのオレを見据える眼差しからは、つい今し方とはなんだか違う、真摯と言うか、切切と乞い願う縋りのようなモノが伝わってくる。

 ……こんなこと、これまでの葉植さんにはあり得なかった。それに、俄かに高鳴りだしたオレのこの動悸は一体何だ?
 まるで、ミラノとの時と同じ。葉植さんも、オレのことを、本気で受け容れてくれているってこと?
 オレの安全も、本気で考慮してくれていたんだろうか? もし、そうなら、オレのこの感激だって、自己欺瞞や独善でなく本物だ。

 現に眼が潤んでこないし、無性に嬉しくて仕方がない。殺戮者だったことなんかも、心底どうでもいい。リフラフでプレブスのダメダメなオレには、むしろ、過分なく相応しい親友かもだっ。

「うん、わかりました。オレも、恥かしながら実はそうだし」

「じゃー、そーゆーことで」

「……それもまぁ、葉植流のドライさでしょうから。そーゆーことで」

「時に楯クン、スマホをもってたりするー? 高級腕時計は買ったりしていないよーで、それはよかったけど」

「へ? もってますよ。もち忘れると、有勅水さんにこっ酷くシカトされるし。でも何で?」
 答えながら、オレはポケットに手を入れて、まずスマホがちゃんとあることを確認。

「だって楯クン、セイレーンたちの大歓迎を受けたんだよー。とても無事とは思えなーい」

「へえっ!」
 セイレーンの歌声にしがみつかれた瞬間よりも血の気が引いた。
 スグ様とり出して見る──とっ!
 
 げ~、振ろうが突つこうがウンともスンとも。これって、もう完全におシャカっぽい……。

「ゴメンねー重ね重ね。ほらー、ボクももたないもんだからー。あらかじめ注意しとくのを、うっかり忘れてたー」

 うっかりって……葉植さんでもそんなことがあるだなんて! 今後はガチで用心しないと、命とりになっちまう絶対っ。

「ん~、まぁどうせモニター品だったから。スマホは学生局で申請すれば、新機種に交換してもらえますし、バックアップデータも一応あるし」

「そーなのー?」

「でなけりゃ、オレがスマホなんかもてませんよ。財団傘下のグループ企業絡みで、ほとんど何でも、常時モニターを募集しているんですよね」

「モニターってぇ……」

「ええ。スマホはライフログを取られるばかりか、メールを始め通話内容まで、サンプリング調査されることがあるから、モニターのなり手なんか、ビンボー人か、財団へ媚びとこうって茶坊主しかいません」

「…………」

 表情には何も出ていないけれど葉植さん、これたぶん、心底からの絶句じゃないだろか?
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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