285 ________________ ‐2nd part‐

文字数 1,312文字

 オレがミラノに対して、フィジカルにオトナをアピールできる機会を、一回分逸したことになるけれど、まぁ夜も更けていることだし、そんな、ガキっぽい思いに耽るのはやめて、さっさとここからフケちまうのが先決だ。

 ミラノたちはただでさえ目立つってのに、この皦皦(きょうきょう)とした出で立ち。
 それで、こんな立入禁止の場所を仲好し小好しと降りているんだから、誰か、通り次りに目撃されれば、また妙な噂が立つことになるのは必至だし。

「ねぇトリノ、楯ってばヒドいヒドい。別に隠してたわけじゃないのに、自分より、ワタシたちの方が先に生まれてたことが気に喰わないらしくって、さっきからフケフケ、フケフケ思ってるよ」

「いや、別にそういうわけじゃ……」

「それは無礼ね」

「ふはっ!」
 ──なぜか、オレは一人吹っ飛んで、今度は階段の途中で座り込むみたいに尻餅をついていた。
 何かが、ちょうどオレのヘソの辺りを直撃したっ。

「うんうん、ニットとジャケットの品質はバッチリだよ。ほらほら楯、早く立つ立つ」

 ミラノは、オレが思わず放してしまっていた手を、つなぎなおそうとまた伸ばしてくる。

 オレはその手をとって、ミラノに引き起こしてもらった。だけれども、この腹の、痺れるような熱い痛みはどうしたことなのか?
 一体何がオレに命中したんだ? 恐る恐る、空いている右手で腹の周りを撫で擦って、何が起こったのかをチェックしてみる……。

 すると、ナイロンジャケットの表面からポロリ、小さなチラと(きらめ)く物体が落ちて、オレの足下、何段か先へと転がっていった。

「悪いけど、それ拾っておいてね。私の位置からだと面倒なので」

 トリノさんが冷静に言い放つため、まだ驚きと痛さからの不安もあって、歩きだしたくなかったのに仕方がない。
 オレはミラノに促される格好で二人に合わせ、階段を降りる動作を再開させた。
 まあ、トリノさんはいつも冷静なんだけれど。

 ──オレは、その腹部から落ちた屈折率の高そうな粒のある段に差しかかった際、少し気張って、二人の足並みに影響させない機敏な身の熟しでそれを拾い上げた。
 屈んだ際に、案じていたとおりヘソの周りに疼痛を覚える。

 が、その薬指の先端ほどの結晶体はやっぱり、なんとなく危懼(きく)がよぎっていたダイヤのピアスだった。

 ……しかし、トリノさんの左耳からオレの臍へヒットさせるには、二次関数の放物線にヒネりを加えたような、物凄い軌道を描いたことになるんだけれど──。

 真正面から命中したのに、それも足元に注意を払っていたのに、オレの眼は、その瞬間を全く捕捉できなかった。
 そして、腹筋の腫れ上がりみたいな違和感から、今また、あらためて結構な衝撃であったことを思い知る……。

 よく見れば、ナイロンジャケットのジップアップ部分の横に、ピアスと同サイズの凹みがくっきりとできていた。
 指先で圧しても元には戻りそうにない……中に、スパイダーニットを着ていなかったらと想像すると、腹部の痺れと疼きからも、ゾワーッと鳥肌が広がってくる。

「どうもありがとう」

 その、精微なカッティングで、キラキラのクラウンが形づくられているダイヤモンドを、今しばらく(つぶさ)に観察しておきたかったけれど──。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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