118 他郷の訛りならば抵抗なく使う地方出身者のアナタへ ‐1st part‐ 

文字数 1,098文字

 けれどもっ。
 そのミラノさんの、どことなく天使懸かった、それもガブリエル級の笑顔に、心ゆくまで癒されようなんてことは、ヴィーが鬼の形相で許してなんかくれやしない。

「何よ一体ぃ。チョット、かなりヒドすぎやしないっ? それも、言うに事欠いて殺すだなんてぇ、どゆことよ楯っ」
 
 どうもこうも、ヴィーに魂を蹂躙されるヒドい思いをさせられたから、相応の文句を吐いたまで。
 でも、一応は腹が癒えた。なので、もうヴィーに、オトナになったら、チョットにかなりを続けると単線思考の揚げ足とりから冷罵されっぞ! とツッコんどきたくもないオレの代わりに、これまた即応でミラノさんが()いしらってくれる。
 
「ヴィーもいけないんだよ。もうほとんどオトナなんだから、おカネの価値がわかってないのに、ホイホイ贅沢なんかしちゃダメダメ。それに、あんな服や靴やバッグを身につけたって、水埜楯は好きになってくれないんだよ」

「チョ~ッ、何ブッちゃけてんのよそれぇ! って言うかミランまで、アタシにお説教してくれちゃう気ぃ?」

「私にお説教されるようじゃ、ヴィーも既に

だよ。ク~フフッ」

「わけわかんないっ。てか何? その、なんか癇に障っちゃう笑いぃ……」

 ガチの辟易とした表情を見せるヴィーに、ミラノさんは実に満足げ。一つ大きく頷くと、その拍子に何かを思いついたのか、ボブルヘッドみたく頷きがこまかくなっていく。

「ハイハ~イ、また三人で愉しくなるために、今度は私がいいトコ連れてってあげるんだよ。アンディアーモ、アンディアーモ(さぁ行こ行こっ)!」

 そう表明すると、ヴィーの手もとってズンズン、ミラノさんはエスカレーターへ向いだす。
 だから、オレとヴィーは並んで歩くことになって、お互いと言うか、少なくともオレは物凄く気マズい──。

 でも、下りエスカレーターだから、ミラノさんは先頭をきってなんか乗り込めない。
 どちらの手も放す気はないみたいなので、オレとヴィーが腕をヒネって前へ出て、恰も父親と母親のようにミラノさんを乗せてやることになる。
 ホント、手のかかる大きなお嬢チャマだ。

 デパートの外に出ても、ミラノさんはオレたちを連れて行くと言っておきながら、どっちへ進むのかがもうわからないでやんの。

「水埜楯、セイレネスがあるデパートはどこだった?」

「えっ、それなら──」

「あっちだっ」

「エ~ッ、ウソでしょミラン? それなら、一番最初に行ったじゃないよぉ。また引き返すわけぇ?」

「これを、古出汁が煮戻るって言うんだよ、アハハァ~」

 ──ふりだしに戻る、でしょっ。
 これはもう、完全にわかってて言っているとしか考えられないな。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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