088 サイレンUサイレント ‐1st part‐
文字数 1,608文字
▼
何や彼やと引きずり廻され、どうにかウチに帰り着けたのは二〇時過ぎだった。
それも、僊河姉妹の二人も一緒に。
彼女たちは、なんとウチで、一箇月ばかりホームステイすることになっていた。
しかもオレの部屋で、オレが追い出されてまで……。
有勅水さんは去年から、かねてより面識があったトリノさんへ、僊婆の血縁者を代表して来日するよう、お伺いを立てていた。
再開発事業の第一期工事が完了する前に、遅ればせでも、葬儀で世話になった人たちへの挨拶廻りはしておいた方がいいに決まっているし、僊婆の墓参りと法要も、僊河青蓮がムリならばせめて孫をという配慮からだ。
しかし遥遥 東京へともなると、それだけのために強行日程で、というわけにもいかない事情があったらしい。
ところが、トリノさんの目途がなかなかつかないことに業を煮やし始めた有勅水さんに、来日を承諾する返事が、ミラノさんから届いたから驚いたそうだ。
それまで有勅水さんも、トリノさんに、ミラノさんという姉が、NYで生活していたことを聞き及んではいなかったから。
確認すると、そう言うことは長女の私に任せなさい、誰かおつきの人をよこしてくれれば、スグにでも渡日しましょう、と言うことで、物好きにも、有勅水さんが新たに提案していたウチでのホームステイも大ノり気。
それでトリノさんも、父親命令により、それまでのスケジュールを中断され、同行せざるを得なくなったみたい。
おそらくは、ミラノさんでは失礼があるとマズいという、賢明な判断からだと思う。
その根拠、オレは、この数時間で嫌と言うほど思い知らされた。
ミラノさんは、フリーウィーリング、自由奔放なんて表現では片づけられない。
天衣無縫、天真爛漫、まるで幼稚園児か日光の野猿、ADHDの疑いまで懐いてしまうほどだった。
まずはミラノさん、「タクシーなんかヤダ~」と言いだして、スカイライナーで都内に戻ることになったのはともかく、その車輌内で三分とじっとしていてはくれない。
周囲の誰彼かまわず興味を示しては、ニンマリと嬉しそうにすり寄って行ってしまう。それも、この国でもヤバそうな人ばかりにだ。
真正面から顔を覗き込んだあと、話しかけるのならまだしも、無造作に腕を掴んだり、手をとって握り締めたり。その唐突さに驚いている相手の顔を、両手で押さえたりしちゃうから、オレだってあわわと狼狽えちまう。
謝るのも、怒られるのもオレで、トリノさんときたら、知らん顔一つせずに傍観しているというタチの悪さ。
葉植さんで鍛えられているとは言え、やっぱり慣れてしまえるモノではない。
少女っぽいのに、デカくて愛想だけは好い、キレイでポップな身なりの外国人という、支離滅裂さから、大目に見てもらえたんだろうけれど、ホント気が気じゃなかった。
上野に着いたら着いたで、有勅水さんは次の指示をくれないし、ミラノさんはアメ横方面へと向かう気満満。最初からそれが狙いだったように思えて焦ってしまう。
上野もアメ横も丸っきり初めてのオレとしては、人がごった返しているイメージしかないので、できればワザワザ踏み込みたくなんかない。
どうせ時間を潰すなら、勝手知ったるウチの周辺がいいってのに。
それにミラノさん、どうも眼球視力自体は良さそうなのに、動体視力が弱いのか、都会の雑踏となると、一人ではまともに歩けなくなってしまった。
人にぶつかってはコケ、人を避ければ物や壁にぶつかってコケ、年甲斐もなく、両膝を擦り剥いての出血沙汰で、もうオレの方がパニック。
それでもミラノさんは、オレの言うことなんか全然聞かず、興味を惹かれた方向へ驀地 なもんだから気がぬけない。
自分では、オレの手を痛いくらい握るクセして、オレが引き戻そうとすると、騒ぎ立てて、怯ませては逃亡を図ろうとする。
NYだったら、オレは間違いなくポリスに拳銃を抜かれ、拘束されていたところだ。
何や彼やと引きずり廻され、どうにかウチに帰り着けたのは二〇時過ぎだった。
それも、僊河姉妹の二人も一緒に。
彼女たちは、なんとウチで、一箇月ばかりホームステイすることになっていた。
しかもオレの部屋で、オレが追い出されてまで……。
有勅水さんは去年から、かねてより面識があったトリノさんへ、僊婆の血縁者を代表して来日するよう、お伺いを立てていた。
再開発事業の第一期工事が完了する前に、遅ればせでも、葬儀で世話になった人たちへの挨拶廻りはしておいた方がいいに決まっているし、僊婆の墓参りと法要も、僊河青蓮がムリならばせめて孫をという配慮からだ。
しかし
ところが、トリノさんの目途がなかなかつかないことに業を煮やし始めた有勅水さんに、来日を承諾する返事が、ミラノさんから届いたから驚いたそうだ。
それまで有勅水さんも、トリノさんに、ミラノさんという姉が、NYで生活していたことを聞き及んではいなかったから。
確認すると、そう言うことは長女の私に任せなさい、誰かおつきの人をよこしてくれれば、スグにでも渡日しましょう、と言うことで、物好きにも、有勅水さんが新たに提案していたウチでのホームステイも大ノり気。
それでトリノさんも、父親命令により、それまでのスケジュールを中断され、同行せざるを得なくなったみたい。
おそらくは、ミラノさんでは失礼があるとマズいという、賢明な判断からだと思う。
その根拠、オレは、この数時間で嫌と言うほど思い知らされた。
ミラノさんは、フリーウィーリング、自由奔放なんて表現では片づけられない。
天衣無縫、天真爛漫、まるで幼稚園児か日光の野猿、ADHDの疑いまで懐いてしまうほどだった。
まずはミラノさん、「タクシーなんかヤダ~」と言いだして、スカイライナーで都内に戻ることになったのはともかく、その車輌内で三分とじっとしていてはくれない。
周囲の誰彼かまわず興味を示しては、ニンマリと嬉しそうにすり寄って行ってしまう。それも、この国でもヤバそうな人ばかりにだ。
真正面から顔を覗き込んだあと、話しかけるのならまだしも、無造作に腕を掴んだり、手をとって握り締めたり。その唐突さに驚いている相手の顔を、両手で押さえたりしちゃうから、オレだってあわわと狼狽えちまう。
謝るのも、怒られるのもオレで、トリノさんときたら、知らん顔一つせずに傍観しているというタチの悪さ。
葉植さんで鍛えられているとは言え、やっぱり慣れてしまえるモノではない。
少女っぽいのに、デカくて愛想だけは好い、キレイでポップな身なりの外国人という、支離滅裂さから、大目に見てもらえたんだろうけれど、ホント気が気じゃなかった。
上野に着いたら着いたで、有勅水さんは次の指示をくれないし、ミラノさんはアメ横方面へと向かう気満満。最初からそれが狙いだったように思えて焦ってしまう。
上野もアメ横も丸っきり初めてのオレとしては、人がごった返しているイメージしかないので、できればワザワザ踏み込みたくなんかない。
どうせ時間を潰すなら、勝手知ったるウチの周辺がいいってのに。
それにミラノさん、どうも眼球視力自体は良さそうなのに、動体視力が弱いのか、都会の雑踏となると、一人ではまともに歩けなくなってしまった。
人にぶつかってはコケ、人を避ければ物や壁にぶつかってコケ、年甲斐もなく、両膝を擦り剥いての出血沙汰で、もうオレの方がパニック。
それでもミラノさんは、オレの言うことなんか全然聞かず、興味を惹かれた方向へ
自分では、オレの手を痛いくらい握るクセして、オレが引き戻そうとすると、騒ぎ立てて、怯ませては逃亡を図ろうとする。
NYだったら、オレは間違いなくポリスに拳銃を抜かれ、拘束されていたところだ。