028 百鬼恣行ハウスへようこそ ‐1st part‐

文字数 1,650文字

 僊婆の四九日も待たずして、僊河家の敷地の再開発事業が始められた。

 もう広場での商売はできなくなるし、工事が終わればオレたちの商売なんかが許される余地はなくなってしまう。
 その事実を、オレはビジネスの契約をする際に有勅水さんから逸早く聞かされていた。

 僊婆がいなくなってしまっては、アパートの建て替えどころか屋敷の保持さえも考慮する必要がない。
 僊婆の意向に沿わせたプランは白紙撤回。
 莫大な相続税を支払うだけの価値に見合う僊河青蓮のため……いや、彼女自身は、実母が亡くなったそのあとでさえ何の郷愁もないらしく、彼女の旦那の出番も呆気なくお終い。
 僊河青蓮を崇拝し寵愛する取り巻きセレブ連中が用意していたプランでもって、再開発が進められる運びとなった。

 僊河青蓮の世界的な成功を讃えるため、どうやらモニュメントとしての意味合いが強い建物と言うか、施設が造られてしまうみたいだ。
 こうも過急に着工されることとなったのも、取り巻きセレブ連中の粋狂で手前勝手な初物喰い根性ゆえだろう。
 デザイナーズブランドへの多大な愛顧から、遠い日本のデザイナーズ物件へ口出しできる機会があるとなんて拡散しだせば、そりゃ、収集がつかなくなる前に工事にとりかかってしまうしかないってもんだ。

 よって、町内への再開発事業説明会も冷血で酷薄なくらい慌ただしく執り行われ、せめて不人情にならないよう、有勅水さんは粉骨砕身しなければならなかった。
 ムッシューの作品を設け置く意向は、当然そのまま尊重されて、事業責任者の変更もなかったから。

 再開発といっても小洒落たビルがちんまりと二棟建つだけ。それも全部で二年半かかる計画を、四期に分けてインターヴァルを入れつつ建設される。
 この一期目では基礎的な土木工事と敷地全体の大まかな整備、それとバス通りに面して地上二階・地下一階建ての商業施設部分ができるのみ。
 総てが完成しても、地上部分の最上階は五階なので日照権についても問題はなく、これまで同様に緑は多く残るし、通りぬけられる階段道も一期目の工事で敷設する。
 少し大がかりな建て替え、というのが妥当な表現だとオレは思う。

 まぁそれだけに留まらないのは、二期目から着工される傾斜地の一部を掘り広げて地下に裏の道路から進入する駐車場を設ける点だけれど、これも営利目的として使えるほどの規模ではないし、地盤に関しても調査済みで周囲への影響はないとのことだ。

 そのため、町の顔役連中からはこれといった反対意見もなく、適当に体面を保つ程度の発問などして了得が示された。
 とり壊されるアパートの住人たちは勿論、広場の商売メンバー全員にまで手厚い補償を確約してくれたので、説明会の議事進行自体は何の滞りもない。

 しかし、有勅水さんでも早手まわしには行かない難題は、その有勅水さんのソツのなさと()(しこ)さが気に喰わない宝婁センパイだった。

 説明会が終わってから、センパイがそろり~と動きだしたことからもそれは明白で、どんな補償にも魅力をカンジることはない、アパートがある場所そのものから離れたくない住人たちに声をかけて、有勅水さんへとゴネだすあり様。

 破格の転居費が準備されていても、それで近所に引っ越せるほど甘い相場の地域じゃない。
 また、そう言い立てられることを見越して有勅水さんは、多少離れる隣町に幾つか格安物件を押さえていたけれど、惜しくも二人分が足りなかった。
 そしてその二人となったのは、有勅水さんの手をなるべく煩わせたくない里衣さんと、どう見てもワザと有勅水さんを煩縟(はんじょく)しようとしているとしか思えないセンパイだ。

 里衣さんは、毛絲さんチの駐車スペースが無料で使えるという、かなりのメリットがあるから離れられないのも納得できる。
 でも、センパイは実家も近いんだし、広くて絢爛なんだろうから、温和しく帰ればいいものを。
 本当は勘当されているだの、一旗揚げるまで帰れないだのと、口から出任せを言い立てて。ったくも~、変なところで駄駄っコなんだから。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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