130 黒は闇より出でて闇より黒し ‐1st part‐

文字数 1,133文字

「そうだよ。トリノが見つけて来たから、セイレネスでは、ボタンで使うことにして、そこから合う服をつくったんだよ」

「ウッソ……」

 ヴィーが着ている薔薇色が基調のショート丈のジャケット、両サイドとその上、そして両胸と左右に三つずつのポケットがあり、その口を隠すため、大きめのフラップが少し浮いたカンジに付けられている。
 それも、デザイン的なアクセントだと思ったのに、やはり滑らかな全体的な輪郭から、確実に浮いているそのフラップの存在感が、ヴィーも気になったんだろう。

 フラップを浮かせていた下のボタンを、フラップのボタンホールに通し、その浮きを押さえたことで、隠れていたボタンが表に現れる。
 それは、ヴィーが何の気なくフラップの一つを捲り上げた際に、チラリッと見取れていたとおり、オレがつくった銀色のテントウムシだった──。

「ホント、これ楯が売ってたヤツじゃないのよ……」

 ヴィーが思いきり絶句してくれたお蔭で、オレも心置きなく存分に、言葉を失ったままでいさせてもらう。

「そのデザイン、V&Mが権利をガッチリ守ってて。それに、ボタンに加工するだけでも大変だったから、たくさんはつくれなかったんだよ。だから限定なの。それでも三二着二二四個、ウチの会社の創業年数分だけのボタンが、セイレネス一〇周年もお祝いして、世界中に出廻るんだよ」

「……スッゲー。信じらんない」

「エ~ッ、何がどう凄いのよっ? それなら、ジャケットの前を留めるのもフックなんかじゃなくて、ボタンにすればよかったじゃん」

「モォ~、水埜楯は愉しくて堪らないのにぃ。じゃあ、もっと教えちゃうと、今ヴィーが着ているジャケットに使ったボタンはね、シリアルナンバーが001から007番のボタンなんだよ」

「……って、六つしか付いてないんだけど。ボタンは、飾りとして目立たせるためのデザインなんだってことぐらい、アタシだってわかるもん」

「そうだよ。ナナホシテントウは幸運のシンボルだし、一つ目のボタンは予備で別個になってるから、世界中のお得意さんが発売前から騒いでいるのが、この一着なんだよ。だけど、それは水埜楯のためにとっといて、それをヴィーのサイズにワザワザ付けたの。わかったぁ?」

「なんか、凄そうなのはわかったけどさぁ……。ホントだわ、ボタンの後ろ側にナンバリングされてるぅ」

「でしょでしょ?」

 ヴィーは胸のボタンをチェックしたあと、今度はポケットの中を探りだした。

「でも、その一つ目のボタンってどこなの? 内ポケットにもないんだけどぉ」

「ジェレジェレ、水埜楯にそれ、あげてあげて」

 せっつくミラノさんとはうって変わり、ジェレさんは、いつの間にか手にしていた指輪を入れるような立派な小箱を、(うやうや)しくオレに手渡してくれた。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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