155 _________ ‐2nd part‐

文字数 1,592文字

 クラブ顧問の湊口(みなとぐち)先生には、言える限りのお礼を言ってあるし。
 オレを見捨てずに、大学へあげてくれた堂波(どうば)先生にも、助教として教育学科へ戻ったから、いつでも会える。チョクチョク食堂棟でも出交わして、昼メシまで奢ってもらい続けてるんだし。
 ホント、中高課程には未練がないんだオレは、完全に! 
 
「理工の連中は、それどころじゃないって知ってるはずよ。それに銜噬先生も会いたがってるわよ、と~っても。水埜にブルーレターが届いたことを知って、一番喜んでたんだから」

 ……こいつら、式では卒業生代表として、いろいろな役まわりがあるために、中高課程の職員室へもチョクチョク出向いていやがったようだ。
 銜噬にもマジで会って、ガチにオレの話を聞いていたみたい……。

「はん、一番耳を疑って騒いでただけだろっ」

「ダメだよこりゃ、ムリでも梓と咲実を引っ張り出すしかないって。こんな遠吠え癖がつきまくった負け犬よっか、ずっと使える。そしたら遺影係も、ジャンケンで決められる余地ができるじゃん」

「やめてりん。眞弓もありがとう、あとは私が話すから」

 んん? 早くも剣橋が、まずは静かに口を出してきたっ。

 草豪も唯唯諾諾なまでに「わかったわ……」と、金樟を連れて和室から出て行ってしまう。
 今度はどう攻めてきやがるのか?
 襖もしっかり閉じられて、体勢的な息苦しさからもドキドキしてくるぅ。

「こんな形でお願いなんて、卑怯だとカンジてはいるのよ。でも私たちは、水埜たち男子が決めつけているほど、強くなんかないのよ実際。弱いからこうして効果的に詰め寄っているの」

「…………」

「敢えて強気に出るのも、それこそアファメーションで、尻込みしそうになる腰を、みんなでたたき合って起こしては、みんなでフォローし合ってきただけ。男子には、絶対数で敵わないから、各課程で代表を続けるしかなかったし……」

「…………」
 何なんだ! この、しめやかな展開? なんか、草豪よりずっと恐ろしいっ。

「こんな風に真情を披瀝しているのも、緑内が死んでしまっているからなのよ。もう幾ら弁明しようと、私たちへの認識を変えてはもらえない。だから、生徒会役員だったと言う理由で、私たちが遺影を持つわけには行かない」

「…………」

「もっとうち明ければ、咲実と梓は、式に出られる精神状態ではないの。緑内の死に様を見てしまってから、ずっと」

「…………」

「根上まで欠席となれば、男子の協力は既にないものと思うべきでしょう? 卒業生代表としての役割り全てを、受験組へ別れた三人を合わせた女子のみで熟さなければならない」

「……そこから、式の間中ずっと遺影を持たなくちゃならない一人を出すなんて、絶対にムリだってか?」

 川溜は、表情や態度からスグに変調に気づけるものの、そうではない江陣原の方が深刻だったようだ。
 事件の晩からしっかり睡眠がとれないために、一日中ぼんやりと、無気力に過ごす状態が続いていた。

 だから、必ず誰かしらが泊まりに行くようにしていて、オレが毎夜レポートの進捗状況を知らせるブログを見て、どうにか世の中が動いていることを認識し、自分も何とかして、本来の生活リズムを取り戻そうという気にはなるようだ。
 ……けれど、自身のレポートを書きあげるなんてことは難しそう。

 川溜は見るからにデリケートで、グロく血腥(ちなまぐさ)いことなんかまるでダメっぽいけれど、江陣原はもっと全てにおいて堅固な奴だと思っていたのに……。
 やっぱ写真をやっているだけあって、映像としての瞬間的な記憶力までが鍛えられていたんだろう。
 緑内の苦悶に歪んだ表情、特に見開かれた虚ろな目が、脳裏に焼きついちまったんだな。

 オレにだって、あの暗がりの中、スマホの光でコントラストを際立たせての、血の気が失せた緑内の死に顔は強烈だった。

 幸いオレは、認識力も記憶力も悪い分、鮮明に再生されず助かっているけれど。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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