110 ______________ ‐2nd part‐

文字数 1,265文字

 けれどそこは、オレがこれまで、一二年間も無事故息災だった通学路。

 左側は、記念公園の植え込みを囲う細い鉄格子のフェンス。右側は、もう建設現場の高塀。
 人やクルマの往来は、決して多いとは言えないけれど、その先は、個人所有のこじんまりした倉庫を隔てて、民家が立ち並ぶ、安穏な一方通行道路だ。
 そこで一体どこのどいつが、口封じに、殺人までしなけりゃならないほどの事件を起こす?
 何で、目撃者がたった一人も現れないんだ?

 まだ、アンチ在栖川的な野次馬どもがネット上で騒ぎ立てているような、

って、こじつけの方があり得そうじゃないか。

 がしかし、そこまでする人間が、緑内の広くはない行動範囲内に実在したなら、同じセクションでほとんど一緒に講義を受けていた根上に、心当りがないわけがない。
 そして何より、休日は博物館の天文科学情報センターに入り浸りだった緑内の人間関係を、一番把握していたのは、そこで働いている父親だったときているんだ。
 オレ以外にも、ケーサツから容疑者候補にされる者が出ていてしかるべしだろう。
 
 だから、まぁ、日銭欲しさに追い剥ぎ殺人を行う人間の存在だって、除外してしまうのは早計とするオレの主張も、同級生たちに頭から否定されはしなかった。
 特に、支持してくれてもいないってのが虚しいけれど……。

「複数犯説に、異議はないんだが……そもそも、あの緑内の足疾鬼(そくしつき)が、搬入路に追い込まれたってのがどうもな。犯人の一人に、オリンピック選手級のスプリンターがいることにならないか?」

「立ち向かわず、逃げようと判断するには、相手との間に五、六メートルの距離はあったわけだろ。それを一気につめる走力となると、陸上連盟から不祥事で追放された元有望選手でも調べれば一発だろ?」

「チョット待てって。仮に六メートルの間合(まあい)があったしよう、緑内が荷物を持ってたことも考慮して、タイム差を二秒とするか。それでざっと計算しても、三六メートルもの追跡劇を繰り広げなくちゃならないんだよな」

「それを考えると、やっぱ風説どおりに、緑内の方から、搬入路へ近づいて行ったとしか思えないんだけどなぁ」

「となれば、単独でもかまわないよ。犯人は、緑内が通りかかったのに気づいて、搬入路へと身を隠した、もしくは目的があって急いで入った。そのあと犯罪が起きることに変わりはないけど、不審をカンジた緑内がのこのこと確かめに行って、()られたんじゃないのかな?」

「そうか。その時点ではまだ犯人になっていない不審者は、搬入路の前までクルマで来たな、それも業務用のバンやトラック。見慣れないクルマが駐まっていたと言うような目撃証言がないのも、建設現場の前だから、その手の車両なら見慣れないも何もないだろ?」

「あぁ、なるほどな。建設現場ってのは、意外とカネになる物が置き晒しにされているってことか?」

「そう。しかも、セイレネスの僊河青蓮が、V&Mに任せて建てているビルだ。どんだけ豪華な建材や装飾具が、運び込まれているか知れやしないしさ」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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