176 ルエ=トイラーロ ‐1st part‐

文字数 1,554文字

「とにかく、今までのは全部ナシ。でもって、目の前にいる思い込みの根上クンである緑内クンを、強引にリセットしたくなる勝庫織莉奈の気持ってのも、わからなくはないわよねぇ」

「確かに。それは、考えてもみませんでしたねぇ。やっぱり上婾さんたちと違い、子供の頃から知っていると、そうした発想はし難くて。しっかり念頭に入れておくとしましょう。でも、ホント、あくまでも可能性だけで警察の見解とも違いますから」

「けど、捜査に行きづまってる警察の見解なんて、もうねぇ……」

「そうなんですけど……勿論、勝庫織莉奈が、この周辺地域内で目撃されたと言う証言はありません。根上も緑内もカノジョはいなかったようなので、各各、見慣れない女性と一緒にいるところさえ、見かけられてはいないんです」

「すみませんけれど、そう言った仮定を前提とした推測の積み上げもあとにしませんか? 眞弓も、まずはわかっている事実だけを話してちょうだい、でないと結局、何が事実なのか曖昧になるだけだから。事件の全容解明みたいな話は、全てを踏まえた上でと言うことでお願いしたいんです。どう水埜?」

「へ? ……そうだな。とり敢えず事実を全部聞いとこうよ、二人ともさ?」

 ……剣橋の奴ぅ、オレを緩衝材としてもこき使いやがって。

 でもまだ抑え気味らしく、とうとうハスカップ100に手を伸ばした。
 剣橋が、栄養ドリンクをグビつく光景なんて、永久記憶に完全保存モノだっ。

 おそらく剣橋は、一応ガチに、緑内と根上の死を(いた)んでいるんだろう。
 しかし草豪は、自分のよく知る人間が、どうして死んじまったのかということの方に、より興味が強い。
 それに剣橋は、事件についての情報のほとんどを、草豪から入手しているもんだから、ここは自分が主位となって仕切る立場にないとでも、ガマンしてる部分があるカンジ。
 まぁ結局は、目的を確実に達成するための独参湯(どくじんとう)にすぎないんだけれど。

「それでは事実をば、続けさせていただきますね。まずは閉鎖されたサイトの管理者や、残るDGの主要メンバーたちから、事情聴取した内容に触れておきましょうか?」

「ええもう、聞いておかずになんかいられませんしっ」

 筌松がやや前のめりの姿勢を見せると、つられるように、首の角度をそろえる上婾さんだった。

「では。これは閉鎖になる前のこと、サイトでのやり取りの様子。根上が、勝庫織莉奈に会いに行くことになった、発端から経緯になるんだと思いますが──」

 根上たちは事件前、人気演歌歌手のことを話題にしていたようだった。
 田宮謡の曲を聴いた老人が、呪われて死ぬ、というアレだ。
 
 何の符合か、今日はいやに呪いづいているような?
 ……でも、オレが根上から聞いた時の内容よりも、幾分現実味がありそうで、アトラクティヴ度も上がったモノになっていた。
 この数箇月の間に、それを可能にする情報が集まったと言うか、情報が集まるだけの出来事が各地で起きていたみたい。

 ──今年に入り、浅草で新春公演を終えた田宮謡は、その勢いのまま関東地区を皮切りに、全国八八都市を巡るリサイタルを開始していた。

 神奈川の横浜からスタートし小田原、千葉に渡って木更津と船橋。
 茨城が土浦と水戸、埼玉は所沢と大宮で、群馬は高崎。栃木が宇津宮そして黔磯。
 
 根上たちが発見された、まさにその日が黔磯での公演日で、現在は福島を終えて、山形での公演に向けて準備を整えているはずだ。
 けれど……根上たちが死ぬまでは、田宮謡がリサイタルを催す前後、その会場となる近隣地域内にて、老人の死亡事故が発生していた。
 恰も、田宮謡の来訪に供せられた嘉贄(かし)のごとく。

 それを、二月の半ば過ぎ頃から、BBS上で話題にし始めたのが勝庫織莉奈だった。

<田宮謡の全国ツアーは、老人の呪殺行脚である>と。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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