129 __________________ ‐3rd part‐

文字数 1,374文字

 肩の辺りしかわからないけれど、先ほど見た柄や色も着ることで立体的になると、よりメリハリが出てシャープなラインをつくっていた。

「ウンウン、ただ色んな角度から見てもらいたいだけなんだよ。チョット動いたところとかだよ。ウチの服はね、上品に畏まって着てても愉しくなんかないない。人の動作も、ちゃんと考えてつくってるんだからぁ」

「そうなんですよ。これは、フルコーディネーツでお求めになるお客様には、是非お勧めしているサーヴィスなんですが、日本のお客様は大抵お断りになるので。こんな機会でもないと、毎日鏡を磨いているのが徒労になりますでしょう?」

 へぇ~。ジェレさんが言うと当然のように聞こえるけれど、でも実際、フツウの日本人がそんなことをしたら、かなり嫌味なカンジがしちゃうよな。
 分を弁えている常識的な客ほど、断るに決まっている……。

 けれど、もし、さっきのフェラーリの小デブがそれをやったとしても、試着するのがセイレネスなんだから充分イケちゃいそうなんだよなぁ……さっきの自前のコーデだって、セイレネスでのコンプスタイルゆえに、風采的には満更悪くもなかったから。
 オレはただ、一台で家が買えちまう跳ね馬にやっかんだってだけで。

「はいはい水埜楯、注目だよ。ヴィーも出て来て、鏡の中を思う存分歩いて歩いて」

「おい大丈夫かよ、営業妨害になりゃしないか?」

 今いる客は女性の方が多いから、またドッチラけて、またまたフロア中に重たい空気が漂うことになるのでは──。

「ムカツクゥ。アタシはバッチリなの、ホラァ。もしそうなったって、これを選んだミランの責任っ」

 そうヴィーは、ガサツにドアの陰から全貌を現すが、ウ~ム……なんだか、なぜかカッコいい、確かにバッチリ決まっている。
 無論、首から下の、身に着けている全てのセイネレスが。

 ミラノさんに手を引かれて、鏡で囲われた中央へと入って行ったヴィーは、開きなおったかのごとき自信満満。
 八方睨みで一とおり我が身をチェックすると、モデル歩きをしてみたり、すっかりその気でポーズなんかまでとりだした。

 けれども、強いて貶すほど悪くはないときちまってる……。
 脚がヤケに長くて、腰まわりまで引き締まっている印象がするし、上半身すら、つい今さっきよりも華奢そうに見えてくるし。

 パッと見、オレの好みではないポップな派手さではあるんだけれど、ウルトラミニのスカートから長細いアラベスク模様のストッキングへと、新緑ってカンジの配色でトーンダウンしていって、マルーンにストッキングと同じグリーンの入ったローヒールが、すっきりと全体を落ち着かせてしまっている。
 たぶん、一輪の花がイメージされているんだ。

 こうなるともう、伊達に図体がデカいとは言えず、ヴィーくらい身長があった方が、花影として見応えがあるような気もしてくる。
 微妙にケバケバしさまでが抑えられて、実に女性っぽさを覚えてしまう。

「あっ……」思わずヴィーへ、オレは一歩二歩と近づいていた。

「何よ楯、どこを思いっきり見てくれちゃってるのよっ?」

 どこも何も、ヴィーの胸から腹にかけてだけれど、スケベだのいやらしいだのと言われようが、オレはそこから目を離せない。だって──。

「やっと気づいたんだよ。どうどう水埜楯? ドキドキワクワクに愉しい愉しい?」

「……それって、オレの?」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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