280 ___________ ‐3rd part‐

文字数 1,354文字

「はい、すみませんでした。それならさ、大学の勉強はいいから、イタリア語のコツを教えてよ。いつでも、少しずつでいいんで」

「いーよ。ボクが、楯クンを短期間でカサノヴァにしてあげよー」

「あの、そこまではいいです」

 オレはただ、葉植さんが、緑内から助けた格好になる

って女子を、緑内を殺害したあとに、本当はどうしたのか? それがチョット気になっただけなんだ。

 ……でも、もういいや。なんとなくわかってしまったから。

 根拠は何もない、結局ダメダメ終いなオレの、アテにならない直感にすぎないけれど、葉植さんが

とか

と、野暮クサいまでに直隠しにする女子たちは、つまるところ、

あらため

、その一人きりってことなんだ。
 それなら、全てがすんなりつながって、納得もいくし。

 勝庫織莉奈のことも、ユダと表現していた。よって裏切り者でも、友情を装った裏切り者って含意がありそう。
 きっと勝庫織莉奈は、呪いの因果律を見つけ出すため、殺老女子とともに老人ホームの放火に関わったんだ。見張りか何か、安全度が高い端役的にでも。

 なのに、名探偵の気分までもを味わいたくて、裏切って、殺老女子がまた犯すことがわかっていた犯罪の決定的瞬間を、書き込み仲間、根上にまで見せようとした。
 だから、一部始終を見守っていた葉植さんが、殺老女子の安全のために張っていた罠を、完遂させるしかなかったわけだ。

 葉植さんは、殺老女子に、より多くを効率的に殺せる場所や方法の入れ知恵はしたけれど、実行には関わらずに、管理者として俯瞰していたに違いない。

 勝庫織莉奈も、殺老女子とそれなりの親交があった。だからこそ、一二日は、深夜にならないと、殺老女子が出歩かないことを知っていたんだ。

 翌一三日は、田宮謡が黔磯でリサイタルを開く日。殺老女子がまた老人を血祭りにあげるとしても、犯行はやはり真夜中……勝庫織莉奈も、殺老女子に、再度手を貸す約束でもしたんだろうか? 裏切ることを前提にして。

 とにかく、勝庫織莉奈は、フェイントの家だとまでは思いも寄らず、殺老女子がそこにいると確信していた。
 そうでなければ張り込んだりしないし、トイレをガマンできなくたって、張り込み途中に一〇分以上も、目を離したりできないんじゃないかフツウ?

 マックでだって、約束の二一時から一五分間なんて、中途半端に待っているし……きっと根上が、少し待ってみようと言ったんだろうな。根上なら最低三〇分は待つはずだから、待ちたくない勝庫織莉奈との、妥協点だったと思えるし。

 殺老女子が、いつ頃外出するかがわかっていなければ、そんなチョットした余裕もカマしてはいられないはずだし、オレがもし勝庫織莉奈の立場だったら、待ち合わせに遅れて来やがる奴なんか、一分たりとも待ちたくないからねぇ。

 うん、勝庫織莉奈は、殺老女子から一二日の予定を聞き出していたんだ。
 老人を殺戮する心中偽装の放火なんかに、軽く一枚噛んだんだから、共犯者の今後の過ごし方や予定くらい、尋ねるのはむしろ当然にカンジるし。

 それゆえ、油断や思いあがりが生じて、全てが葉植さんの罠だと気づかずに、まんまと底まで落っこちてしまった。
 それも、はっきりとは何も知らされていなかった根上を、いきなり道連れにして。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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