216 ________________ ‐2nd part‐

文字数 1,440文字

 って言うか、なんか、もうどうでいいような。どうにでもしてくれっ、みたいな。
 高が新聞紙だし。しかし、されど新聞紙で、しっかり丸めてあれば、やっぱり痛いぃ……。

「アラアラ、仲好くやってよ~。順逆の縁で結ばれた仲間なんだし」

 ……また随分なことを、平然とおっしゃってくれるよねぇ有勅水さん。
 さすがに、顔面と耳はヒットされると厳しいので、アームブロックだけは、しっかり固めさせてもらう。

 その隙間からも窺えるけれど、ハルポコの方も、オレのガードの上をたたくばかりで、もう先ほどの殺気も威勢もありはしなかった。
 なんだか、義務で、オレに新聞紙を振り上げているようなカンジ。

 仕方ない。今日はもうトコトン踏んだり蹴ったりなんで、ハルポコが満足するまで受け続けてやるとします、か? ──ほぼ、そう覚悟を決めた時だ。
 ハルポコはなぜか、突風にでも煽られたみたいに、体をグルルンと錐揉みさせて、オレの前から吹っ飛んで行った。

 植木の一本に、頭を突っ込んで着地したハルポコは、何拍か置いてから、我が身の無事を確認するみたく、オソるオソると動き始める。

 見る限り、大事には至っていないようだけれど……今のは一体何なんだ?

「おい楯、黙って見てないで手を貸してやれよ。ったく、いつの間に、そんなワザを身につけやがったんだ?」

 オレは、ガードを固めていた腕をほどいて視線を上げる──今のは、センパイも魂消たらしく、手摺りから大きく身を乗り出して、ハルポコの具合を覗き込んでいた。

「オレは、別に何も……」

「なら、無意識に強烈な脚払いでも決めたってのか? 楯のその、無意識ってのが侮れないんだよなぁ。そいつが意識的に出せるようになりさえすれば、今回のテストなんか全然、チョロいもんだったのにな」

 オレが助け起こすまでもなく、またトリノさんが、ハルポコを手伝って立ち上がらせてくれていた。
 まぁハルポコにしても、オレなんかの力など借りたくはないだろうし、ここはトリノさんにお任せして、センパイへの反論を優先させていただく。

「だから、オレじゃないですって。ハルポコが、いや、その人が、自分で勝手に飛んでったんですよっ」

「まったく、とり敢えず諸諸は中で話そうぜ、昼間でも、さっきから、会話の内容が不穏当すぎて近所迷惑だからな。でまた、とり急ぎ、特上握りスペシャルを五人前注文しとけ。当然、楯の(おご)りでな」

「えーっ! そりゃオレのためにお騒がせしましたけれど、何でそこまでぇ。オレだって、しっかりボコボコの、土塗れなんですから。ホントよかった、ジャージに着替えてて。これがもし、セイレネスのニットやらジーンズだったら、ショック死してたトコですよ」

「しみったれたこと言ってんな。楯が今お大尽だってことは、この有勅水からちゃんと聞いてるんだ。カネは、こう言う時にこそ景気好く使わねぇと、天下が恙なく回ってくれないんだぜっ」

「……はぁい」

「わかったら、さっさと注文して上がって来いよ。俺がとっておきのカプチーノでも、淹れてやるから。ジャージに付いた土と埃は、よくはたき落としてな」

 センパイに続いて、有勅水さんも、目だけはガチと言うより真剣にして言ってくる。

「おハルも、もぉそれくらいにしときなさいね。あなたは自分で言ったよおにオトナで、社会人な上に、人気工芸家になりつつある身なんだから」

「……わかってるワッ。んだけどさぁ……」

 やれやれだなぁ。ハルポコからは、まだしっかりと蟠りがあることが、カンジられちゃうんだけど。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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