144 _________________________ ‐3rd part‐

文字数 1,200文字

 「水埜楯がそうカンジちゃったら運命なんだよ。それに、口に出して言っちゃったから、もうファタたちが動き出してるんだよ」

「ファタ? ……何だっけそれ?」

「運命の女神でしょ、クロートーとラケシスとアトロポスの三姉妹だよ。それが、これから水埜楯がガンバるのか、ガンバらないのか、決心する決定的瞬間を待ってるんだよ」

 あぁ、また神話の、擬人化された運命のことか……一人目が生命の糸を紡ぐと、二人目がその長さを決めて、三人目が糸を断つ。
 それで一人一人の寿命が決まるって話だ。

 確かに、運命って言葉が口を衝いて出る前に、何やら荘厳で、宗教画のようなイメージがオレの脳裏に浮かんでいたかも……。

 そこには、神神しい女性たちが、純白のドーリス式キートンの裾を飜しながら、廻り舞っていた気がしなくもない。

「それそれ。どうして日本人の水埜楯が、そんなイメージに君臨されてるのかは、まだわかんないけど」

 君臨? ……でもそれは、たぶん、初等課程の低学年次に担任をしてくれた鵬馬(ほうま)先生の影響だろう。
 先生はギリシア・ローマ神話の研究者で、何かにつけ説教にもち出したから。
 その世界観が、潜在意識にでも刷り込まれているんだろうな。

 でも、オレの決心を待っているって……それは、運命の女神などではなく、ミラノさんがじゃないの?

「ふーん。で、どうするどうする水埜楯? 早く決めなくちゃ、運命でも運命じゃなくても、世界は動き出してくれないんだよ」

 って、どうしよう……やるしかないのか?
 よくわからないけれど、ミラノさんの、今この、こんな体勢でオレを見つめるキラッキラな瞳を、幻滅と失望で思いっきり曇らせるなんてことは、とり敢えずオレにしちまえる度胸なんてないんだよなぁ……。

「ウンウン、その方がキレイなんだよ。やるしかないない水埜楯」

「そ、そう? じゃあ、やって、みようかな一発ぅ──っと! 何すんのミラノさん? 痛いって」
 何が何だか? 今度はミラノさん、オレの左の耳たぶに噛みついてきた。

「やろうやろう水埜楯。今やるぅスグやるぅ、でも何やるの?」

 ……そんな、無責任なぁ。

「オ~イ、何発やろうが一向にかまわんけどな。とにかく、そこで今オッ始めるのだけは勘弁してくれよなっ。里衣にバレたら殺されっぞ」

 センパイ! トリノさんと帰って来ていたらしい──。

 なんて間が悪い、最悪のタイミング。
 せめてもうほんの少し、やるとかどうとかって会話になる前か、あとに帰ってくれたらよかったものを。
 オレも、どうして一丁じゃなく一発なんて言っちまったんだっ?

 こんな隅でこんな体勢だし、ミラノさんは全然おかまいなしで、オレの上から退こうともしてくれないし、退かすには、もっとミラノさんを思いきり触らなくちゃならなし……。

 あ~、もうダメダメだぁ。
 これからセンパイたちに何をどう取り繕ってみたところで、まるで言いわけになりゃしないってぇ!!!
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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