167 軍茶利明王 調伏に着手す ‐1st part‐
文字数 1,687文字
とり敢えず全員に栄養ドリンクを配り終えると、なんと剣橋が、自分の右隣のイスをオレのために引いた。
どうにも、物凄~く禍禍 しいカンジ……。
「根上が亡くなってから一週間が経ちますけれど。お葬式も行われずに荼毘 に付されてしまって、御家族からは、御焼香さえも迷惑になるからと断られているんです。こんな不例な事態、私たちにはただでさえ釈然としないのに、甘受することなんてとてもできません」
案の定、オレが渋渋とイスへ腰を下ろしたのをきっかけに、剣橋は根上のことを語り始めやがった。
内容が内容なので、外見の不憫さから中身までイタみだしている筌松も、外見だけはプリティー‐プリティーな上婾さんも、とりあえず温和しく耳を貸してくれてはいる。
そこでオレへ、草豪が明王然としたキッツい目配せで、
「……だな。釈然やら、甘受やら……」
って、要求されているレヴェルのことまでは言いたくないクセに、一応は従っちゃうんだよなぁオレ……とにかく、あとがいつまでも怖すぎるから……。
「とは言っても、私たちが根上と特別に親しかったわけでもありません。根上は誰とでも宥和 するタイプだったし、生徒会でも一緒に活動した仲間でしたし。女子生徒が少ない中で、男子との調整役としても、大変ホネをおってもらいました──」
剣橋までが、チラと横目でオレを見てきやがるから敵わないぃ。
「……ん。だよな……」
「ですから、このまま何もせずに、根上を黄泉路へと送り出してしまっていいんだろうかと思えてなりません。上婾さん、筌松さん、あなた方はどうでしょう? 延ては、根上と同じセクションを始めとする理工学部のみなさんは、一体どんな認識なんでしょうか?」
「……そう言われても、休み中だし、ゼミ選びでセクションもバラけてるもんだから。ましてや麻布キャンパスだけでも、学部全体ともなるともう完全に他人事ってカンジですよね。理工の一年生ばかり立て続けで、どっちも附属あがりでしょ?」
そんな筌松の言い分には、上婾さんからも同調が見て取れる。
「ウンそう。附属あがりと言うだけで、別格なイメージがあるし。事件も事件だから、正直みんな、ほとんど現実味がカンジられていないって思うんですけど」
「イメージだけで、死のうが自分とは関係ない、そう片づけるんですか。あまりに短絡的で、人間の感情としてどうなんでしょうね?」
透かさず草豪が噛みつきかかるけれど、「眞弓」と剣橋も左手を軽く上げて即座に制した。
やっぱ阿形も所詮は狛犬、今は一匹だからケルベロスだな。
寝不足でハイになっているのは草豪の方かもしれない。
「失礼。徹夜明けに、季節感も見様もなく、一張羅をジャージと着合わせたリフラフ野郎と出交して、多少イラついていたものですから」
チッ。オレが場をつなぐってのは、やっぱこういうことかよ……。
「まぁとり敢えず、それもしょうがないってトコから始めようよ眞弓。マスコミが熱心に報道しようとすればするだけ、クサい演出も付加されて、どんどんフィクションぽくカンジられちゃうわけだし。身近な事件だろうが、自分に直接の被害がなければ、群集心理的にも、あり得ないって斬って捨てるのが人情だしね」
……なんと、金樟が草豪を窘 めだしやがんの。
それでもスマホから目を離さないから、草豪も黙りはしない。
「アンタは、いい加減にスマホ仕舞なさいよ。話を聞いてもらっている二人に失礼でしょ、そんなだから附属あがりって言われるのよっ」
「別にいいし。そもそもスグに対処に乗り出すべき私たちが、レポートに感 けてほとんど動かなかったんだから、彼女たちに文句言えた義理じゃないよ。これは、逆に私たちが動きだすことで、彼女たちを含めた理工の連中にも動いてもらおうっていう試みの、初会合みたいなモノなんだろうからさ」
そこで漸くスマホを仕舞ったかと思えば、お次は金樟、テーブルの上のアムブロシアへと手を伸ばし、憚りもなくキャップを開けにかかりやがる。
……こんな場でなんか、とてもオレには真似のできない芸当だぁ。
どうにも、物凄~く
「根上が亡くなってから一週間が経ちますけれど。お葬式も行われずに
案の定、オレが渋渋とイスへ腰を下ろしたのをきっかけに、剣橋は根上のことを語り始めやがった。
内容が内容なので、外見の不憫さから中身までイタみだしている筌松も、外見だけはプリティー‐プリティーな上婾さんも、とりあえず温和しく耳を貸してくれてはいる。
そこでオレへ、草豪が明王然としたキッツい目配せで、
まずはアンタが話に加わる姿勢を見せなさいよっ
、と訴えてきやがるぅ。「……だな。釈然やら、甘受やら……」
って、要求されているレヴェルのことまでは言いたくないクセに、一応は従っちゃうんだよなぁオレ……とにかく、あとがいつまでも怖すぎるから……。
「とは言っても、私たちが根上と特別に親しかったわけでもありません。根上は誰とでも
剣橋までが、チラと横目でオレを見てきやがるから敵わないぃ。
「……ん。だよな……」
「ですから、このまま何もせずに、根上を黄泉路へと送り出してしまっていいんだろうかと思えてなりません。上婾さん、筌松さん、あなた方はどうでしょう? 延ては、根上と同じセクションを始めとする理工学部のみなさんは、一体どんな認識なんでしょうか?」
「……そう言われても、休み中だし、ゼミ選びでセクションもバラけてるもんだから。ましてや麻布キャンパスだけでも、学部全体ともなるともう完全に他人事ってカンジですよね。理工の一年生ばかり立て続けで、どっちも附属あがりでしょ?」
そんな筌松の言い分には、上婾さんからも同調が見て取れる。
「ウンそう。附属あがりと言うだけで、別格なイメージがあるし。事件も事件だから、正直みんな、ほとんど現実味がカンジられていないって思うんですけど」
「イメージだけで、死のうが自分とは関係ない、そう片づけるんですか。あまりに短絡的で、人間の感情としてどうなんでしょうね?」
透かさず草豪が噛みつきかかるけれど、「眞弓」と剣橋も左手を軽く上げて即座に制した。
やっぱ阿形も所詮は狛犬、今は一匹だからケルベロスだな。
寝不足でハイになっているのは草豪の方かもしれない。
「失礼。徹夜明けに、季節感も見様もなく、一張羅をジャージと着合わせたリフラフ野郎と出交して、多少イラついていたものですから」
チッ。オレが場をつなぐってのは、やっぱこういうことかよ……。
「まぁとり敢えず、それもしょうがないってトコから始めようよ眞弓。マスコミが熱心に報道しようとすればするだけ、クサい演出も付加されて、どんどんフィクションぽくカンジられちゃうわけだし。身近な事件だろうが、自分に直接の被害がなければ、群集心理的にも、あり得ないって斬って捨てるのが人情だしね」
……なんと、金樟が草豪を
それでもスマホから目を離さないから、草豪も黙りはしない。
「アンタは、いい加減にスマホ仕舞なさいよ。話を聞いてもらっている二人に失礼でしょ、そんなだから附属あがりって言われるのよっ」
「別にいいし。そもそもスグに対処に乗り出すべき私たちが、レポートに
そこで漸くスマホを仕舞ったかと思えば、お次は金樟、テーブルの上のアムブロシアへと手を伸ばし、憚りもなくキャップを開けにかかりやがる。
……こんな場でなんか、とてもオレには真似のできない芸当だぁ。