156 _________ ‐3rd part‐

文字数 1,651文字

「えぇそう。ね水埜、お願いします。こんなこと言えた義理じゃないってことはわかっているけど、本当に冗談じゃなく、一生のお願いよ。私ができることなら、どんなお礼でもさせてもらうから、本当よ」

「……アホかっ。そんな剣橋見たかないっての、オレの世界観を滅亡させる気かよ? そうまで言うなら、どうしてオレじゃなく根上を説得しなかったんだよ? 生徒会のスポークスマンだったヤツが欠席できて、何でオレが見のがしてもらえないんだっ」

「だって、昨日の晩から出かけてしまって、連絡も取れないのよ。根上は、こうしたことでごまかしはしないわ、水埜だって知ってるでしょう? 卒業式よりも大事な用で、やむを得ずってことなのよ」

 知るもんかっ。
 オレが知ってる根上は、優等生の割りにはマメで融通の利く、隠れミステリーマニアだったってことぐらいだ。
 それも、極最近になって知ったんだから。

「オレだって忙しいんだっ。そんな何時間も、ミラノさんを一人、ほったらかしになんてできないだろが」

「水埜楯! どうどう~?」
 ──そこでだしぬけな喚声とともに、襖がバーンと勢い良く開けられた。

 朝からハイテンションな、ミラノさんの御登場だぁ。

「……どうって、何がです?」

「卒業式には、トリノがこのスーツでなくちゃダメダメって言うんだよ。私はイマイチなんだけど、水埜楯はどうどう思うぅ?」

「へぇっ! 行く気なのミラノさん?」

 さらに顔を上げて見てみれば、ミラノさんの後ろで、まだ眠そうなスウェットスーツのままのトリノさんが、オレの制服まで手にして立っていた。
 それもどしてか、ぴっしりプレスまでがかけられているみたい……。

「行く気ミチミチ~。だって、おもしろそうだもん」

「いやそんな、オレは卒業式になんか行きたくないのっ。わかるでしょミラノさんならぁ」

「ちゃんと卒業しとくのが、ダメじゃない水埜楯なんだよ。女のコのちゃんとしたお願いも、ちゃんと聞いてあげなきゃダメダメ」

「だあって……ホント、ガチでイヤなんだよ、人を成績で見てる先生たちに会うのがさぁ。オレなんか人間と思われちゃいないんだ。この剣橋にしたって、こんな都合の好い時だけでさ。それに式に出ないのはオレだけじゃない、ダメじゃないヤツだって出ないんだから」

「水埜楯も、成績が好すぎる理知華たちを人間だって思ってないからお互い様だよ。イヤな先生が水埜楯を見たって、ワタシも、水埜楯がイヤな先生全部の全部を見てあげちゃうからいいじゃん。イヤじゃない唏も見に来てくれるし、制服だってピッタリコン着れるようにしてあるんだよ。さぁさぁ卒業しに行こう行こう」

「ウッソ、有勅水さんまで呼んだわけ?」

 グゥ~、やっぱ全てを見透かされているようだけれど……。

「でもぉ、遺影を持つとなると、緑内の家族が絶対許しちゃくれないよ。心外だってさぁ」

「いえ、それは、根上が余計な気をまわしただけなのよ。私たちも、既に緑内の御両親には断りを入れてあるの。別に、水埜のことを悪く思ったりはしていなかったわ」

「ホラホラァ、まんまとイモムシになってないでゴハンゴハン。今日は芭場里衣のつくり立て立てっ、早くしないと冷めちゃうんだよ」

「えぇ~、そんなぁ」

「ありがとトリノ、心ゆくまで二度寝してして~」

 ……オレはまだ何一つ承諾していないのに、ミラノさんは、タイトスカートのスリットから膝上をひらりんと見せて、一件落着と言わんばかり。

 ぅぬ~完全にハメられた。
 きっと、この寝袋だけでなく、オレ宛の卒業式の案内状を隠したのもミラノさんだったんだな、モォ~まったくぅ。

「剣橋っ、できることなら、何でもするって言ったよな」

「えっ……でもそれは勿論、常識の範囲内ってことよ」

「ウザ苦しいな、さっさとオレをこの寝袋から出しやがれっ。それでチャラにしてやるよ」

 ──まぁ、この(あや)(かしこ)き不動明王‐剣橋に向かって、アホ呼ばわりができちまったんだからねぇ。

 それ以上を望んだら、仏罰どころか、ミラノさんからまた、グッサグッサにダメダメ呼ばわりだし。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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