162 _____________________ ‐2nd part‐

文字数 1,144文字

 商店街も町内会も、直接V&Mを敵になんかしたくないに決まっているから、この先も布団屋のオヤジを急先鋒に祭りあげたまま、グジグジと、有勅水さんへプレッシャーをかけ続けることになるんじゃないのかな?

 大企業然とした対処はとらずに、個人の人柄で事に当たって来た有勅水さんのやり方が、完全に裏目に出てしまった形になる。
 その辺をニオわせて、宝婁センパイが揶揄うもんだから、端なくも有勅水さん、ここ連日連夜の御乱酔へと走ってしまっているんだろう。

 有勅水さんの憂鬱がどれほどのモノかは、オレにも想像が容易い。
 だからこそ、ワザとグレさせてガスをぬいてあげているんだし、いくら有勅水さんが絡んで来ようとも、みんな各各、きっちりと相手をしてあげているんだ……。

 ただ、オレは、それを愉しそうになんてしてあげられない。
 布団屋のオヤジ、延いてはこの町内を、愚陋(ぐろう)とまでは言わないけれど、なんか人間って、世間って、つくづくエグくて吐き戻しそうな感覚に襲われる。

 有勅水さんも、オレの女神様なんだから、ウチでいくら酔ってもかまわないけれど、クダなんか巻かずに、もっと飄然としていて欲しいよねぇ。
 暗澹たる人界を、月栄(つきば)えでバリバリと照破する女神までが、俗情で落ちぶれてしまったら、オレなんか、何を頼みに社会へ出て行けばいいのかすらもわからなくなるじゃん!

 ……まぁねぇ。確かにこうして見ていると、今日のような薄曇りの日には、やたら鬱陶しくカンジられる高塀ではある。
 所所、汚れで変色して、実に頽廃的ムードを演出してくれていそう。

 そんな演出なんか、性根がデカダンなオレには不必要、だから高塀に突き当たる手前で、透かさず道を曲がってしまう~っと。

 そうして少し行ったところで、懸念(けんにょ)もナシに「楯ク~ン!」と、背後から呼びかけられた。

 振り返って見れば、(あやま)たず、今曲がって来た所に葉植さんがいるではないか。
 今日はまた珍しくも、ドス赤いウォームアップスーツ姿での御登場だ。

 ってことは葉植さん、今オレが避けた高塀へと向かう道を、例のY字路でも、忌み嫌われている側から駆けぬけて来ちゃったことになる。
 葉植さんも、この町の噂を知らないのか? まぁ知っていたら知っていたで、敢えて通りたがる性分ではありそうだけれど。

 葉植さんは自分で呼び止めておきながら、オレがここにいるのを訝しむかのように、一度大きく眉根に皴を寄せると、スーツをガサガサ喧しく鳴らして、オレの方へ小走りで寄りつきながら言う。

「楯クンお早すぎー、まだ家にいると思ってたー」

「おはよう御座います。そうなんですよね、今日はミラノさんに言われて急いでまして。でも葉植さんこそ、朝からオレに用ですか?」

 て言うか、お早すぎるのは、葉植さんの方だって間違いなく。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み