075 ____________ ‐3rd part‐
文字数 1,815文字
葉植さんから、
早速、袋から幾つもの原色が使われた物体をとり出して、その全容をチェックするように持ち手を変えては見まわすムッシュー。
それは高さ二〇センチほどのサイズ。全裸の男女が交互に四人、両腕を上げ全身を一本に伸びをしたまま海老反ったポーズで、それぞれの手先と足先だけで結合されたラグビーボールを縦置きしたようなアウトラインのキャンドル。
一つを丸ごと見れば、だんだら模様ではなく、不均一な太さで歪 に波立たせたストライプ柄だった。
灯心を一人ずつに通して、合わさった手先の部分が融けきると、四つの燭光へ分離する小ワザを利かしたつくりになっているみたい。
縞模様の配色が一人ずつ異なっていることから、たぶん発せられる芳香も各各違って、それで混ざると、ダメな人にはダメな悪臭と化すんだろう。
毎度毎度、彼女の新作を見るたびに思うことだけれど、ホント、造形的にはかなり精巧に出来ていて驚嘆を禁じ得ない。
キャンドルを形づくっている男女とも、局部やボディラインが冗猥なまでにデフォルメされている点を含めても。
そう賛辞を贈ったところで、
「……この縦縞は、結構な手間と苦労をカンジさせてくれるね。こんなのを試供品にしてしまってもいいのかい?」
「さすがムッシュさん、わかるー。だからそれは遠慮せずにもらっといてねー。でも縦縞のは各種類に一つずつしかつくらなかったから、早い者勝ちなのー。さー、わかったらスグにお店へ買い占めにゆこー」
「それは急がないとね。今から店まで案内してくれるかい?」
「もちー。今回もムッシュさんが一番客だねー」
おいおい、デートはどっちだぁ?
葉植さんも軽笑一つなく、ムッシューが作品を袋に戻し入れた腕に組みついちゃって。オレがいるなんてことなど全く眼中にないカンジで、来た道を引き返して行こうとする。
そっちは店とはまるで逆方向なのに、それだけ長く一緒にいたいってことなんだろか?
まぁムッシューへの差し入れも、ワザワザ麻布十番の和菓子屋まで行って来たみたいだからねぇ……ジェラシーとは明らかに違うんだけれど、なんだか動揺。
一体、この葉植さんの、露骨なまでの態度の差はどこからくると言うんだろ?
ムッシューとは同じ奇道を歩む者同士、交わした言葉数以上に、強く通じ合うモノがありそうではあるけれど。
「あのっ、ムッシュー、仕事の方は、もう終わったってことなんですよね? 有勅水さんに連絡はしましたか?」
「ン~。僕の仕事は終ったと思うよ、目が覚めた時にそんなカンジがしたからね。唏なら、まだアトリエの撤収でいるんじゃないかな?」
「それじゃ、有勅水さんに挨拶してから行きますから、その縦縞ってヤツを、オレにも一つキープしといてくださいよね葉植さんっ」
「ヤダ~。全然わかってない、ボクが何言っても真剣にわかろーとしない楯クンは、横縞ので充分なのー。それと早い者勝ちは、大衆消費社会の醍醐味だもん。ねームッシュさん?」
「ンン、そうなのかい? それは水埜クンがいけないだろうね」
「だねー。でねでね聞いてよームッシュさん、今回のこのシリーズなんだけどー」
無表情コンビが仲睦まじく……。やれやれ、縦縞だの横縞だのわかるかっちゅうの。
その前に、オレが聞いたはずの幻聴の正体は何だったんだろ?
……ま、それよりもだ。元元オレは何か吹っきれずにいたんではなかったか?
確かに色色と話してもらっておきながら、なんだか一つも判然としてないや。
こんなでは、葉植さんが最後でヘソを曲げても仕方がないか……自信作の中でも、たぶん一番の出来だったに違いないキャンドルの模様すら、うかと見間違えていたオレだしね。
でもまぁ二人の後ろ姿が、腕を組んでいるにもかかわらず寒寒と見えてしまうところが、どうにも苦笑せずにはいられない──。
さて、それではオレも、有勅水さんからじきじきに、バイト終了の言い渡しを受けるとしましょうかねぇ。
……でもなんか、長いこと束縛されていたギプスが、ようやっとはずせる解放感みたいなモノよりも、残り惜しい気分がしてきちゃってるんだよなぁ、ヤケに。
デリケートゾーンの激烈なカユミに
! と記された側を前にした手提げ袋を受けとるムッシューは、はっきりしない勿怪顔のままではあるものの、なんだか嬉しそうだった。早速、袋から幾つもの原色が使われた物体をとり出して、その全容をチェックするように持ち手を変えては見まわすムッシュー。
それは高さ二〇センチほどのサイズ。全裸の男女が交互に四人、両腕を上げ全身を一本に伸びをしたまま海老反ったポーズで、それぞれの手先と足先だけで結合されたラグビーボールを縦置きしたようなアウトラインのキャンドル。
一つを丸ごと見れば、だんだら模様ではなく、不均一な太さで
灯心を一人ずつに通して、合わさった手先の部分が融けきると、四つの燭光へ分離する小ワザを利かしたつくりになっているみたい。
縞模様の配色が一人ずつ異なっていることから、たぶん発せられる芳香も各各違って、それで混ざると、ダメな人にはダメな悪臭と化すんだろう。
毎度毎度、彼女の新作を見るたびに思うことだけれど、ホント、造形的にはかなり精巧に出来ていて驚嘆を禁じ得ない。
キャンドルを形づくっている男女とも、局部やボディラインが冗猥なまでにデフォルメされている点を含めても。
そう賛辞を贈ったところで、
だってアートだものー
! と、また葉植さんは豪語で一蹴するだけだろう。だからオレも、一つは必ず買っておかなくちゃ。「……この縦縞は、結構な手間と苦労をカンジさせてくれるね。こんなのを試供品にしてしまってもいいのかい?」
「さすがムッシュさん、わかるー。だからそれは遠慮せずにもらっといてねー。でも縦縞のは各種類に一つずつしかつくらなかったから、早い者勝ちなのー。さー、わかったらスグにお店へ買い占めにゆこー」
「それは急がないとね。今から店まで案内してくれるかい?」
「もちー。今回もムッシュさんが一番客だねー」
おいおい、デートはどっちだぁ?
葉植さんも軽笑一つなく、ムッシューが作品を袋に戻し入れた腕に組みついちゃって。オレがいるなんてことなど全く眼中にないカンジで、来た道を引き返して行こうとする。
そっちは店とはまるで逆方向なのに、それだけ長く一緒にいたいってことなんだろか?
まぁムッシューへの差し入れも、ワザワザ麻布十番の和菓子屋まで行って来たみたいだからねぇ……ジェラシーとは明らかに違うんだけれど、なんだか動揺。
一体、この葉植さんの、露骨なまでの態度の差はどこからくると言うんだろ?
ムッシューとは同じ奇道を歩む者同士、交わした言葉数以上に、強く通じ合うモノがありそうではあるけれど。
「あのっ、ムッシュー、仕事の方は、もう終わったってことなんですよね? 有勅水さんに連絡はしましたか?」
「ン~。僕の仕事は終ったと思うよ、目が覚めた時にそんなカンジがしたからね。唏なら、まだアトリエの撤収でいるんじゃないかな?」
「それじゃ、有勅水さんに挨拶してから行きますから、その縦縞ってヤツを、オレにも一つキープしといてくださいよね葉植さんっ」
「ヤダ~。全然わかってない、ボクが何言っても真剣にわかろーとしない楯クンは、横縞ので充分なのー。それと早い者勝ちは、大衆消費社会の醍醐味だもん。ねームッシュさん?」
「ンン、そうなのかい? それは水埜クンがいけないだろうね」
「だねー。でねでね聞いてよームッシュさん、今回のこのシリーズなんだけどー」
無表情コンビが仲睦まじく……。やれやれ、縦縞だの横縞だのわかるかっちゅうの。
その前に、オレが聞いたはずの幻聴の正体は何だったんだろ?
……ま、それよりもだ。元元オレは何か吹っきれずにいたんではなかったか?
確かに色色と話してもらっておきながら、なんだか一つも判然としてないや。
こんなでは、葉植さんが最後でヘソを曲げても仕方がないか……自信作の中でも、たぶん一番の出来だったに違いないキャンドルの模様すら、うかと見間違えていたオレだしね。
でもまぁ二人の後ろ姿が、腕を組んでいるにもかかわらず寒寒と見えてしまうところが、どうにも苦笑せずにはいられない──。
さて、それではオレも、有勅水さんからじきじきに、バイト終了の言い渡しを受けるとしましょうかねぇ。
……でもなんか、長いこと束縛されていたギプスが、ようやっとはずせる解放感みたいなモノよりも、残り惜しい気分がしてきちゃってるんだよなぁ、ヤケに。