005 ___________ ‐2nd part‐

文字数 1,423文字

 でも、どうしよう──。
 英語なら、ビビりながらも今まで何とかなってきたけれど、オレはまだセンパイみたいにフランス語なんか話せない。
 っていうか、そもそもオレは人との接し方を訓練するために、ここでこんな商売事に参加し始めたわけで……。

 にわかに狼狽しながら、毛絲さんは一体どう対処するのかと、隣のなりゆきに全神経を向ける。
 しかし逆に毛絲さんから助けを求められては敵わないので、白白しくはあるがハンダ(ごて)をバッテリーに接続して商品づくりのフリを開始。
 オレの商品も一応こまかい作業をするので、集中しているポーズを見せれば、毛絲さんもさすがに、それを中断させてまでオレに泣きつきはしないんじゃないかと猿芝居に入る。

 ところが──、
「こんにちは。えーと、ここは何のお店なのかな?」

「あ、はい、いらっしゃいませ。オリジナルブレンドのハーブティーやカクテルティーなんですけど」

「そうなんだ? なんかほかにも色色あるね」

「ええ、まあ。私がこんなスタイルなもんだから怖がられちゃって、お茶は知り合いにしか売れないんで、気に入ったこまごました物も集めて置いているんです」

「これは失礼。もうハロウィーンかなって思ったんだけど、でもとても似合ってますよ」

「ありがとう御座います、お世辞でも嬉しいですぅ。けど、お茶の品質はいいんですよ。ハーブはそれぞれ個性があって効能とは別に人によって好き嫌いがあるので、味も芳りも強すぎないようになってます。よろしかったら騙されたと思って、一杯アイスでいかがですか? 暑くなってもきましたから」

「アイスクリームもあるの?」

「あ。いえ、えっとー、温めのお湯でじっくり出したお茶に氷を入れて冷たくするってことです」

「じゃあ、それで一杯。お勧めのお茶は何かあるのかな?」

「ハイッ。今日はローズヒップの美肌ティーと、ジュニパーベリーを利かせたレモンバーベナのバッチリすっきりティーを御用意してます」 

「バッチリ、すっきり?」

「ええ、レモンバーベナはフランスでベルベイヌって呼ばれているんですけど御存知ですか? シトラールって芳香成分がレモンと同じ爽やかな酸味で心身をシャッキリさせます。これにリフレッシュ効果のあるジュニパーベリィーの独特の松脂(まつやに)っぽい香り付けをしてるので、そう名付けてまして。これはジンやリキュールの清清しさの風味付けにも使われててですね──」

 オレは苦笑いとともに小さく安堵の溜息を一つ、お芝居から真剣モードへと工作作業をシフトさせた。

 ……なぁ~んだ、あのムッシュー日本語しゃべれるじゃん。それに至極まともな人じゃん。
 それこそ少し行った先にあるフランス大使館に用事でもあるか、秋からウチの大学院に来た研究生だったりするのかも知れなかった。

 しかし、ダメだよなぁ全然。まだまだオレは、どうしても外見からの先入観で人を判断してしまう。

 でも、外見には、その人の内面が必ず表れているし、チョイ違うけれど、

とも言うじゃないか。
 羊質虎皮、鬼面仏心なんて場合も、絶対に出で立ちにその片鱗が滲み出ているとオレは確信している。

 あのムッシューだって、人当たりは好さそうだけれど、結局はプライヴェートで体裁を全く気にしない無頓着な性分ってことだ。
 ここに立ち寄って、まずセンパイのTシャツを買ったことからも、日本のサブカルに興味があるだけでなく、正統ヲタクたちから鼻を()ままれる

素養もたんまり潜在するってことだしっ。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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