175 ____________________ ‐3rd part‐

文字数 1,581文字

「勝庫織莉奈には、そっちの趣味はなかったんです。まぁ短くはないつき合いからの感想ですが、写真で見た限り勝庫織莉奈は、一三にしてはオトナびた目つきが印象的ですけど、緑内の好みのタイプとは違うんで。彼女にしつこく言い寄っていたと言うことも考え難い。あいつはそう言うトコ、ムカつくほどわかり易い奴でしたから」

 草豪にも、用意している話の流れがあるもんだから、要らぬ脱線はさせないよう、それとなくではあるものの、きっちり方向づけはしてきやがる。

「その逆はありませんか? 緑内クンって、如何にも頭の回転が速そうな眼鏡クンじゃないですか、ミステリー好きな子が惹かれる要素は、多分にあると思うんだけどな。根上クンは生化学の分野を得意としているんだろうから、一三歳には、天文マニアの緑内クンの方が、話せることがたくさんあって愉しいような気もするし」

「じゃぁ美夏は、勝庫織莉奈が、緑内クンに全然相手にしてもらえなかったから、殺したって言いたいわけ?」

「開きなおるしかないほど背伸びしちゃったおマセさんなら、それこそ、勘違いも相当だろうし、気を惹くために過激なこともするんじゃない?」

「どんな風にそれ?」

とか、逆に

って熱演している内に、勢い余って本当に殴りつけちゃった。なんて、ありがちでしょ? その時、手にしていたのがバールだったもんだから、大変なことになっちゃっただけで」
 
「え~っ。それなら、ただ単に、根上クンと緑内クンを間違えてたって考えた方が、まだまともじゃない?」

「え、どう言うこと?」

「勝庫織莉奈は、何度かこの辺へやって来て、根上クンと思しき人物を割り出したんだけど、実はそれ、緑内クンだったってこと。見た目の情報が皆無なら、二人ほど似通った者同士は存在しないわ」

「なるほどねぇ……何よトシ、疲れはどうしちゃったわけ?」

「ウルサいわよ美夏……勝庫織莉奈は、それからも緑内クンをストーカーしに出て来ていて、それでとうとう三月二日に、偶偶辺りに誰もいなくなる瞬間ができたから、勇気を出して、根上クンだと信じていた緑内クンに、声をかけたんじゃない?」

「でも緑内クンは当然、暗号解読の御褒美のことからして、全く知らないんだから、そこで話が噛み合うはずもないし、勝庫織莉奈には、緑内クンが見苦しくシラをきっているとしか思えない、とか?」

「そう。やっとの思いの反面、根上クンを完全に追いつめてやったって言う、得意げ満満なもんだったから、緑内クンの予想外なまでに素っ気ない態度は、勝庫織莉奈の中ではち切れんばかりに高ぶっていた感情を、プッツンさせちゃったとか?」

「それでバールで殴っちゃった? 正直に自分が根上クンであることを認めなさいって? でもどっちにしても、よく考えてみると、どうして、勝庫織莉奈はバールなんかを持ってたんだろう?」

「それは知らないわよ。けど、殺害現場は建設工事現場だし」

「なら、工事関係者たちは責任のがれに、毎日の後片づけの杜撰(ずさん)さを、口裏合わせて黙ってるわけ?」

「チョ、チョット、筌松さんも上婾さんも待ってください。警察はとり敢えず

と発表しただけで、実際の凶器は発見されていないんですから」

 ……クサ~。絶対芝居だ今の、草豪がこの程度で慌てる道理がないってのっ。
 
「そうそう。美夏ってば、変な喰いつきしないでよね」

「え~っ? けどまぁストーカーじみた行為って、思春期なら誰だって少なからずやっちゃうもんだけど、勝庫織莉奈は、その度がすぎていたんじゃないかしら?」

「あるねそれ。ここぞとばかりに名探偵を気取っているのに、ホシは全然観念してくれない。人違いだとわかっても、それはそれで一三歳にすればかなり複雑よねぇ。ストーカーするほど好きになっちゃったのは、根上クンじゃなく緑内クンなんだから」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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