133 テントウムシの惨巴舞(サンバ) ‐1st part‐

文字数 1,472文字

 ヴィーを探しにとりあえず、ミラノさんをジェレさんに預けて、一人ショップを出て来たものの、ヴィーの行動パターンなんか根本的にわからないから探しようもない。

 既に服、クツ、バッグと買っているから、あとはアクセかコスメ、雑貨小物ってところだろうか、さ迷うとしたら? 

 何かははっきりわからないけれど、発散‐解消しておく目的ならば、より高価なアクセかもと当たりをつけて、ガチのじゃない、カジュアルな商品が置かれたコーナーをフロア案内図に従って目指してみる。
 ヴィーだって、さすがに財布を忘れていることくらいスグ気づくだろうし、向こうからの引き返しで鉢合わせる確率もそう低くはないはず。

 ──ところがだ。
 制服姿じゃないから派遣デバガなんだろうけれど、ホワイトデイ‐ギフトフェアのチラシを突き出してきたその手の指にも、オレのテントウムシが輝いていやがるではないか!

 恥も忘れて、屈み込んでまで目近に熟視しちゃえば、オレが指定したとおりに、小さなピンクの宝石が点点と七つ、オレの貧相なイメージを遥かに超えた輝きを放ってくれていた。

「……あのぉ、お客様何か?」

 ──「あのっ、どしたんですかそのテントウムシ?」

 オレが、コメツキバッタみたく上体を起こしたもんだから、派遣デパガのおネエさんはオレに瞿然(くぜん)とした顔を見せたけれど、そこは派遣とは言えプロ、スグ様ニッコリ答えてくれる。

「えっ、これ? やっぱりカワイ~? 今さっきにも、やたら大き──いえっ。やっぱり物凄く驚いて、尋ねられたお客様がいらっしゃいましたので」

「……で? それは、どう入手されたんですかっ」

「ぁハイ。これはね、向こうにあるアクセサリー売場で衝動買いしちゃったの。ホワイトデイまで待てなくって。カノジョへのお返しにはチョット高いかもよぉ、でも躊躇ってたら、売りきれちゃうんじゃないかしら?」

 おネエさんが視線を投じた方向は、オレが向かおうとしていたフロアの南側。
 
 オレはまた、おネエさんをびっくりさせる勢いで歩きだしていた。
 チラシすら受けとらずに悪いとは思うものの、オレの足は止まらない。

 意識のほとんども、両サイドに皓皓(こうこう)と並ぶショーケースへと舐めるように注がれて、ほかの客を避けるのもままならなかった。
 まるで自分が自分ではなく、勝手に加速する体のGに、自我が圧し出されて遅れてついて行くカンジ。
 この感覚は、人格が分裂しちまう初期症状か? それともこれが幽体離脱体験なのか? 

 あった! それも、一際目立つ飾られ方をして──。

 通路を少し入った、有名ブランドの宝飾品とは、別個に集められたカンジのコーナーのほぼ中央。そこでも場違いとも言えそうな、百葉箱を模したショーケースへとさらに近づく。

 ガラスの鎧窓の中はメルヘンチックな花畑になっていて、そこにオレのつくった六種類の昆虫たちが、リングやらブレスレットやらネックレスとなって留まっていた。
 いずれにも、チアフルな光彩を放つ宝石が嵌まっていて、テントウムシのピンク色の石はダイヤモンドだった。
 番号違いのウラモジタテハ二種類にも、ホワイトダイヤと水色のトパーズが使われて、邯鄲にはルビー、ハンミョウにはエメラルド、クマバチにはイエローダイヤがチラチラと輝く。

 石に関しては全くの無知なので、色と形だけを決めさせてもらった。
 しかし実際にこうして本物の、それも代表的な宝石が使われているのを見てしまうと、なんだか、途轍もなく大それたことをやらかしてしまった気がしちゃう。

 もう言い知れぬ恐怖から、全身、寒イボが立ってくるぅぅぅ……。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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