085 電撃来日、妖鳥の幻怪たる娘たち ‐1st part‐
文字数 1,797文字
白色人種とはよく言ったもので、その彼女、
そこに、血色の悪い小さく薄い唇と、実際には、オレを
見た目どおりに、スジまで通せるのかはさておき、自己主張だけは激烈なまでに強そうな、ツンとした鼻までが載っかっている。
とり敢えず金髪だけれど、色と艶がかなりぬけていて、手術を受けたあとみたく短く刈り込んだヴェリーショート。
それでも、こまかく束になった髪が、マヨネーズを搾り付けたカンジに、見事なうねりをつくっている……。
そんな容貌だけれど、顔のつくりそのものは、どこか身近い印象がある。
全体的に整っているので、美人と分類ができても、やっぱキツそうと言うか、可愛げはないと言うか、少なくとも、オレが自ずと友好モードへきり替わっちまう対象からは大ハズレ。
今ここでガンバったところで、わかり合えそうになんて全然思えないことからも、通りすがりの
一過性不愉快
と確定される。なので、オレも思いっきり眼力を込めて睨み返してやった、やったったっ──。
アホだと思いたけりゃ思えばいいさ。そのとおりのアホなんだし、オレは。
なんかもう吹っきれた。これは、女神様の厳命なんだっ。天下のV&Mの賓客を迎接するという、滅多にできない社会勉強でもある!
っと、力みすぎのあまり、目の焦点がおかしくなっちまった。
視軸をズラし、瞬きで修正していたら、列の最後の集団内に、トレンチコートでキメた如何にもラテン系な紳士を発見!
スケッチブックをより高高と揚げてアピール。
もぉ~早く気づいてくれよシニョーレ、行ったことなんかないけれど、ウチの近所の、有名な人気イタメシ屋へと御案内しちゃうからさぁ。
──「君が、水埜楯クンなんだね?」
「へっ!」
見れば、眼差し冷ややかな玉子マヨネーズが、さらに近い距離で、オレを直視したまま立ち止まっていた。
……何ゆえオレを知っている?
「そのようね。ほかに、ウチのガーメンツを着用しているティーンズは見当たらないので」
何だかさっぱり……ひょっとして! これが万が一って事態なのかっ?
「あの、もしかして有勅水さんのお客さんですか?」
「そう。もう暫くここで待ってもらえる? 少し目を離した隙に姉がはぐれてしまったので」
「は? はい……」
タママヨは、スニーカーの底をクチュクチュ鳴らして歩み寄り、オレの横に並んだ……これが結構デカい。
その背丈は、オレよりも幾分低いだけの一七五センチといったところだろうか。
でも、なんか、それ以上の威圧感を覚えてしまう。
失礼を承知で、足元までを、もう一度横目でチェック──。
ありふれたエナメル素材のスニーカーだと思いきや、よくよく見るとこれまた稀有けれつ。
透明素材の内側に、液状の塗料が数色封じ込められているカンジで、それが沸騰しているかのように、蠢めいては交じり、分散し、色を変えたり戻したりしている。
バッシュ以外に興味がないから、今や、こんなのが出ているとは知らなかった。
やはりNYは、いや、世界は想像以上に遠かったみたい。
それにしてもよかったぁ、日本語バリバリしゃべれるじゃないかよ、このタママヨさん。
目元には険があっても、品行は良さそうだし、気質も至極まともそうだし……。
横目で、隣へさらにチェックを入れると、髪のうねり具合がよくわかった。
パーマではなく、物凄い癖っ毛のために、短くしておかないとどうにもならない、そんなカンジ。
それから、左の耳たぶにだけしていると見えたピアスは、やたらと大きな紅い石だった。ルビーだったら相当高そう。
「何か?」
ギクッ……タママヨさんは眼光だけでなく、感知力の方もお鋭いようで──「いぇあの、失礼して、電話をかけさせてもらってもいいですか? 有勅水さんに、無事会えたことを報告したいんで」
「どうぞ」
どうも歯ぎれまでいい人みたい。言葉は端的だけれど、突っ
きっと、声質に1/fの揺らぎが含まれているから円やかなんだ。
無感情に見えるのも、欧米人特有の彫りの深さと眉毛の色の薄さ。何より瞳、淡い紫をした虹彩のせいだろう……。
何となくだけれど、ムッシューとも葉植さんとも違って、本来は豊かな情味を、意識的にコロしきっているようにも思えてくる。