089 __________ ‐2nd part
文字数 1,598文字
仕方なしに、アメ横界隈へと足を入れれば、今度は慮外にも、ミラノさんよりトリノさんが厄介な反応を示しだした。
ミラノさんが、人やその服装や所持品に興味を露わにするのに対して、トリノさんは、店先やショーウィンドウに飾り置かれた品品に魅了されてしまうみたいで。
殊アクセサリー類、宝石や貴金属装飾品が視界に入るとスルスル吸い寄せられ、じかに手にとって見ずにはいられない。
それだけならまだしも、恬然 とオレに「これ買って」と、ねだってくるから堪らない。
いくらアメ横が庶民の味方でも、五八〇万円のピアスが半額だからって、安いことには全然ならない。
ムリだと諦めさせるたび、トリノさんは、この世の終焉かのごとく露骨にがっかりしてくれて、これがもう、日本人として、男として、完全否定されるカンジで、かなり心神を耗弱させられた。
それからも、二人から方向性の全く違う要求で、あっちだこっちだと猛攻撃を受けまくり。
オレの完全武装は、敵がセイレネスのデザイナーと経営者の娘たちだけに、通用する道理もない。
もはや、テレだの遠慮だのは、邪魔なスケッチブックとともにかなぐり捨てて、二人の手をがっちり握り、魚鱗の陣形で妥協点を何とかつなぎ続けて踏破した。
その間、僊河姉妹は、ユニゾンで不平不満を訴えるなんて芸当も見せたけれど、泣訴したいのはオレの方だった──。
どうにか大事に至ることなく帰宅すればしたで、一息吐くヒマもなく、ヴィーの奴が激烈な息巻きで突っかかって来やがるし、ホントもうバスケの試合でゴール下(ビロゥ・ザ・リム)を一人で死守したようなエラい辛労さ。
ただ無性に、毛絲さんが、僊河姉妹への迎接 ついでに、オレにも点ててくれた日本茶が、五臓六腑に沁み渡るほど美味かった。
今日は毛絲さん、初お目見えの、
そのまま一っ風呂浴びてベッドに倒れ込めれば、極楽至極なのだけれど、悲しいかな、オレのベッドは既にウチの二階にはない。
有勅水さんが告げたオレの引っ越し先は、非情にも、あの、通い慣れ勝手知ったるプレハブハウスだった。
僊河姉妹がウチで滞在する期間中オレは、建設現場の夜間警備員というか、ムッシューがつくったあのセイレーン像守りとして、バイト代がもらえるという手まわしまで整っていた。
厚みが充分残る札入れと引き換えに、有勅水さんから、色がグリーンに変わったセキュリティカードと、一旦返却したプレハブハウスの鍵を渡される。
オレのIDナンバーも以前のままでいいときた……。
まさに、悲喜と苦楽のジェットコースター人生、禍福は糾 える縄のごとし、とはこれ如何にだ。
素直に怒れも喜べもしない、ありがたく容赦ない配慮に、オレはただただヘラついて見せるしかない。
僊河姉妹に、挨拶がてら、我が家の同居人たちと居合わせた連中を紹介し、里衣さんが用意してくれていた創作タコ焼きで、軽く歓迎会を行う運びにもなる。
みんなウチに、NYからミラネーゼ姉妹がやって来るということは、有勅水さんから聞かされていたようだけれど、それが僊河青蓮の娘だとまでは知らされていなかったから、殊のほか響動 いていた。
今までの苦労も、それで酬われた気分ではあるけれど、主役は無論、人懐っこいミラノさんと、彼女の分までしっかりとした日本語で質問に応じるトリノさん。
オレのホネおりが表舞台にあがることなどないことが、癪じゃないと言ったら嘘になる。
でもまぁ、喧しいヴィーの興味も完全に二人に向いていてくれるから、このまま温和しくしておこう……実際のところ、おくしかないし。
ともかく、里衣さんの創作タコ焼きは、僊河姉妹の口にバッチリ合ってくれたようで宴も闌 、ジャバニーズ・アプリコット・フィズだなんて、御陽気にまやかされた毛絲さん仕込みの梅酒のソーダ割りもがふるまわれ始めた。
ミラノさんが、人やその服装や所持品に興味を露わにするのに対して、トリノさんは、店先やショーウィンドウに飾り置かれた品品に魅了されてしまうみたいで。
殊アクセサリー類、宝石や貴金属装飾品が視界に入るとスルスル吸い寄せられ、じかに手にとって見ずにはいられない。
それだけならまだしも、
いくらアメ横が庶民の味方でも、五八〇万円のピアスが半額だからって、安いことには全然ならない。
ムリだと諦めさせるたび、トリノさんは、この世の終焉かのごとく露骨にがっかりしてくれて、これがもう、日本人として、男として、完全否定されるカンジで、かなり心神を耗弱させられた。
それからも、二人から方向性の全く違う要求で、あっちだこっちだと猛攻撃を受けまくり。
オレの完全武装は、敵がセイレネスのデザイナーと経営者の娘たちだけに、通用する道理もない。
もはや、テレだの遠慮だのは、邪魔なスケッチブックとともにかなぐり捨てて、二人の手をがっちり握り、魚鱗の陣形で妥協点を何とかつなぎ続けて踏破した。
その間、僊河姉妹は、ユニゾンで不平不満を訴えるなんて芸当も見せたけれど、泣訴したいのはオレの方だった──。
どうにか大事に至ることなく帰宅すればしたで、一息吐くヒマもなく、ヴィーの奴が激烈な息巻きで突っかかって来やがるし、ホントもうバスケの試合でゴール下(ビロゥ・ザ・リム)を一人で死守したようなエラい辛労さ。
ただ無性に、毛絲さんが、僊河姉妹への
今日は毛絲さん、初お目見えの、
ありんす
が口癖らしき、吸血鬼キャラのコスプレではあったけれど。そのまま一っ風呂浴びてベッドに倒れ込めれば、極楽至極なのだけれど、悲しいかな、オレのベッドは既にウチの二階にはない。
有勅水さんが告げたオレの引っ越し先は、非情にも、あの、通い慣れ勝手知ったるプレハブハウスだった。
僊河姉妹がウチで滞在する期間中オレは、建設現場の夜間警備員というか、ムッシューがつくったあのセイレーン像守りとして、バイト代がもらえるという手まわしまで整っていた。
厚みが充分残る札入れと引き換えに、有勅水さんから、色がグリーンに変わったセキュリティカードと、一旦返却したプレハブハウスの鍵を渡される。
オレのIDナンバーも以前のままでいいときた……。
まさに、悲喜と苦楽のジェットコースター人生、禍福は
素直に怒れも喜べもしない、ありがたく容赦ない配慮に、オレはただただヘラついて見せるしかない。
僊河姉妹に、挨拶がてら、我が家の同居人たちと居合わせた連中を紹介し、里衣さんが用意してくれていた創作タコ焼きで、軽く歓迎会を行う運びにもなる。
みんなウチに、NYからミラネーゼ姉妹がやって来るということは、有勅水さんから聞かされていたようだけれど、それが僊河青蓮の娘だとまでは知らされていなかったから、殊のほか
今までの苦労も、それで酬われた気分ではあるけれど、主役は無論、人懐っこいミラノさんと、彼女の分までしっかりとした日本語で質問に応じるトリノさん。
オレのホネおりが表舞台にあがることなどないことが、癪じゃないと言ったら嘘になる。
でもまぁ、喧しいヴィーの興味も完全に二人に向いていてくれるから、このまま温和しくしておこう……実際のところ、おくしかないし。
ともかく、里衣さんの創作タコ焼きは、僊河姉妹の口にバッチリ合ってくれたようで宴も