018 _____________________ ‐3rd part‐
文字数 1,864文字
雑誌記事の受け売りでしかないけれど、僊河青蓮は相当なマスコミ嫌いで、ショーの最後にさえ顔すら見せない。
見せたとしても、それは手の込んだ3D映像だったり、等身大フィギュアだったりする。オスカー受賞の際ですら、その映画の主演女優が代理人を務めたくらいだ。
取材も全て文書でのみ回答するといった徹底ぶりとかで、本当は実在なんかせず、海外ブランドに沸く日本をターゲットにした企業戦略により、捏 ちあげられた架空の人物だとも流言されたほど。
無論それはデマもいいところ、そうならば疾 っくの昔に表参道や並木通りに、お洒落なストアビルがブッ建てられているはずだからねぇ。
また僊河青蓮は、舞台美術のアシスタントから衣裳も手掛けるようになったという生粋のファッションデザイナーではなかったせいもあって、日本では当初ほとんど評価されなかった。
今ならバズりまくりそうな、奇妙奇天烈なモノばかりをこぢんまりと発表したデビューであったものの、アングラな舞台衣裳ならともかくと、当時の業界からはクズ呼ばわりされていたらしい。
だからに決まっているけれど、ヨーロッパへ飛び出した僊河青蓮は、大の日本嫌いとも言われている。
よって如何に天下のV&Mとは言え、日本への正規販売契約を取りつけるのは一筋縄ではいかなかったに違いない。
これまた日本では全くの無名であろうムッシューを、有勅水さんが押さえていたという幸運な偶然がなかったら、僊河青蓮のセイレネスによる凱旋はあり得なかったのではなかろうか。
「そお、水埜クンも僊河青蓮のアフィシャナドゥ(熱狂的ファン)だったんだ?」
「って、そんな。まぁ礼賛 はしてますけれど、熱愛や崇拝ってほどまでは買えないですから」
「ふ~ん。正直言っちゃうと、この手の仕事はライセンス生産までの契約を取りつけないとダメなの。まぁイタリアンメイドってことも日本での市場価値を高めているんでしょうけど。でも、実際そおやって喜んでくれるのをまのあたりにすると、ディースの作品を切り札にしてセイレネスへ斬り込んでみた甲斐はあったみたいね」
「みたいなんてもんじゃないですよぉ。Tシャツからして現地価格の倍以上吹っかけられるのがフツウなんですから。センパイだってそのシャツや革パン、セイレネスですよね?」
この話題、やはりセンパイにはド~でもよかったようで、チラと伺える顔色は迷惑そう。
「ん~今日のシャツは違うが、まぁ夏にもフツウに穿けるレザーパンツなんてのは、セイレネスしかないからな。それに俺は、円高時にイスタンブールで纏め買いしたから、楯のようなバカは見ちゃいない」
……確かにバカげてはいるけれど、何も有勅水さんの前で、そうも悪し様に言わなくてもいいと思うんですけどぉ。
とにかく目今のところ、セイレネスを身に付けていれば、否、ワードローブに一着でも所有してさえいたら、誰に見てくれをツッコまれようが怖くない。
逆に青蓮イズムなる奔放不羈 な、何でもアリの無為自然スタイルを体現しているんだと、相手の料簡の狭さを槍玉にあげることが許されてしまう。
衣服としてこの上ないだけでなく、セイレネスは隙だらけのオレを補完してくれるんだ。
倍額払っても決して高い買物じゃないっ、他人から要らぬ干渉を受けたりして陰陰滅滅となり易いオレにとっては。
センパイだって、リスペクトするミュージシャンとアーティストの二人を真似て、ほぼいつもストライプシャツと革パンを愛用しているってのに、それを棚上げしてオレにバカはないもんだよなっ。
「でもセンパイ、航空運賃を出すよりは安いと思いますけれど。折角のインレグだって、オレにはセンパイと違って、海外を放浪させてくれるスポンサーなんかいませんしね」
「それは自業自得だろ。おまえに旅をさせてやろうと思わせるほどの可愛いさがないだけのこった。オレは二〇歳まで、自慢の息子としての努力を怠らなかったからな」
「……ってそれ、オレにまで言いますかセンパイはぁ」
「第一、俺はカネがなかろうが、何をやってでも行ったことには変わりはない。出してくれるって言うのを遠慮しなくちゃならないような、卑屈な親子関係でもないんだしな」
卑屈だろうが結構ガンバって反撃したってのに、センパイの舌の長さには歯が立たない。
しかし、遠まわしにでもセンパイが小っ恥かしいお坊ちゃま育ちだということを、有勅水さんに教えることができただけで満足だもんねっ。
有勅水さんも目笑はしてくれているし。
オレたち二人、両方を笑っているのかもしれないけれど……。
見せたとしても、それは手の込んだ3D映像だったり、等身大フィギュアだったりする。オスカー受賞の際ですら、その映画の主演女優が代理人を務めたくらいだ。
取材も全て文書でのみ回答するといった徹底ぶりとかで、本当は実在なんかせず、海外ブランドに沸く日本をターゲットにした企業戦略により、
無論それはデマもいいところ、そうならば
また僊河青蓮は、舞台美術のアシスタントから衣裳も手掛けるようになったという生粋のファッションデザイナーではなかったせいもあって、日本では当初ほとんど評価されなかった。
今ならバズりまくりそうな、奇妙奇天烈なモノばかりをこぢんまりと発表したデビューであったものの、アングラな舞台衣裳ならともかくと、当時の業界からはクズ呼ばわりされていたらしい。
だからに決まっているけれど、ヨーロッパへ飛び出した僊河青蓮は、大の日本嫌いとも言われている。
よって如何に天下のV&Mとは言え、日本への正規販売契約を取りつけるのは一筋縄ではいかなかったに違いない。
これまた日本では全くの無名であろうムッシューを、有勅水さんが押さえていたという幸運な偶然がなかったら、僊河青蓮のセイレネスによる凱旋はあり得なかったのではなかろうか。
「そお、水埜クンも僊河青蓮のアフィシャナドゥ(熱狂的ファン)だったんだ?」
「って、そんな。まぁ
「ふ~ん。正直言っちゃうと、この手の仕事はライセンス生産までの契約を取りつけないとダメなの。まぁイタリアンメイドってことも日本での市場価値を高めているんでしょうけど。でも、実際そおやって喜んでくれるのをまのあたりにすると、ディースの作品を切り札にしてセイレネスへ斬り込んでみた甲斐はあったみたいね」
「みたいなんてもんじゃないですよぉ。Tシャツからして現地価格の倍以上吹っかけられるのがフツウなんですから。センパイだってそのシャツや革パン、セイレネスですよね?」
この話題、やはりセンパイにはド~でもよかったようで、チラと伺える顔色は迷惑そう。
「ん~今日のシャツは違うが、まぁ夏にもフツウに穿けるレザーパンツなんてのは、セイレネスしかないからな。それに俺は、円高時にイスタンブールで纏め買いしたから、楯のようなバカは見ちゃいない」
……確かにバカげてはいるけれど、何も有勅水さんの前で、そうも悪し様に言わなくてもいいと思うんですけどぉ。
とにかく目今のところ、セイレネスを身に付けていれば、否、ワードローブに一着でも所有してさえいたら、誰に見てくれをツッコまれようが怖くない。
逆に青蓮イズムなる
衣服としてこの上ないだけでなく、セイレネスは隙だらけのオレを補完してくれるんだ。
倍額払っても決して高い買物じゃないっ、他人から要らぬ干渉を受けたりして陰陰滅滅となり易いオレにとっては。
センパイだって、リスペクトするミュージシャンとアーティストの二人を真似て、ほぼいつもストライプシャツと革パンを愛用しているってのに、それを棚上げしてオレにバカはないもんだよなっ。
「でもセンパイ、航空運賃を出すよりは安いと思いますけれど。折角のインレグだって、オレにはセンパイと違って、海外を放浪させてくれるスポンサーなんかいませんしね」
「それは自業自得だろ。おまえに旅をさせてやろうと思わせるほどの可愛いさがないだけのこった。オレは二〇歳まで、自慢の息子としての努力を怠らなかったからな」
「……ってそれ、オレにまで言いますかセンパイはぁ」
「第一、俺はカネがなかろうが、何をやってでも行ったことには変わりはない。出してくれるって言うのを遠慮しなくちゃならないような、卑屈な親子関係でもないんだしな」
卑屈だろうが結構ガンバって反撃したってのに、センパイの舌の長さには歯が立たない。
しかし、遠まわしにでもセンパイが小っ恥かしいお坊ちゃま育ちだということを、有勅水さんに教えることができただけで満足だもんねっ。
有勅水さんも目笑はしてくれているし。
オレたち二人、両方を笑っているのかもしれないけれど……。