050 ___________ ‐2nd part‐
文字数 1,684文字
「話をするにはチョット暗かったかな? どうぞ中にお入りよ。そんな怖じ気づかせたまま帰したら、唏にあとで何を言われるかわからない。ディースのエージェントなんだけど、これがまた怒りだすと手がつけられなくってね」
巨漢は物静かな笑いを浮かべていた。一歩、斜めに下がってくれたから、微弱ながらも光が当ってよくわかる。
健やかそうな皓い歯からも、安堵感がもらえた。
「……あ、あの、有勅水さんとも、お知り合いなんですか?」
「あれ? 君こそ唏とも知り合いなのかい」
「はい、って言うか有勅水さんに頼まれて、ディースさんの様子を見に来ただけなんですっ。詳しい説明はまだなんですけれど、今日からその、アルバイトに雇っていただいていまして」
「なんだ、そうだったのか? なら余計なことを言ってしまったな。僕も、そんなはずはないとは思ったんだけどね、ウェブで根気よく索れば、大概の情報は仕入れられるもんだから」
「……はぁ」
「まぁ、とにかくおいでよ、仕事中のディースのあしらい方は僕が教えてあげよう。唏が、君にどこまで話してるのかも確認しておきたいし」
「は、はい……」
男は、セミダブルサイズのベッドマットみたいな背中を向けて、さらに内側の薄暗がりへと踏み入って行く。
返事をしてしまった手前、ついて行かないわけにはいかない。
逃げ出すタイミングも完全に逸しているし、逃げたところで、あっさりと追いつかれ、タックルをブチカマされて敢えなくお終いっぽいし。
でも確認って、一体オレに何を? なんだか物凄くヤバそうな気が……。
無意味だろうけれど、一応警戒モードで、今度は下がり始めたシャッターをくぐり、建設現場内へと踏み込んでいく。
あのムッシューの弟を自称するハンキー(巨マッチョ)が、ここまで来ていたのは、開閉スイッチがシャッターを支える柱に付いているためだった。
入ってスグ右手にプレハブハウスが建っていて、ここ周辺の仄明るさは、その窓の一つから洩れている非常灯の光みたい。
しかし、オレがついて行く先はどうやらそこではないらしく、男はさらに奥に駐車されたトラックの脇で、彫像然とこちらを向いてオレを待ってくれている。
ヘタに機嫌を損ねてもマズい、オレは小走りで急いだ。
何せトラックが、大きめのワンボックスカーにしか見えないときてるんだから。
確実に二メートル超で一〇〇キロ、いや、二〇〇キロも超えていそうな凄まじい体格。あの体で何をされても、オレなんか無事では済みそうにない。
オレが近づくと、男はその巨体を滑らかにターンさせて、ズンズンと石段を上がって行く。
石段だけは、まだ、元のまま残されているようだった。
そして案の定、ただのデカブツではなさそう。
NBAプレイヤーには憧れているもんだから、機敏なビッグマンかどうかくらいは、オレにも一目で判断がつく。
トラックは横須賀ナンバー。コンテナ部分の側面には、まるでブーメランにデフォルメされた大きなカモメのマークとともに
そんなモノで納得するのも可笑しいけれど、ムッシューが着ていたツナギの胸に入っていた黄色い刺繍が憶起される……真実、あの大男は建築屋でムッシューの弟なんだろう。
大兄に小弟と書き表すものの、ムッシューのところは敬譲にすら使えないくらい逆転しているな。
独りっコのオレとしては、ムッシューが例のごとくボサッとしている内に、あの弟さんが、食事のおかずを全部平らげちゃっている場面を想像してしまうけれど、そんなことであんな体格差が生じるとはとても考えられないよねぇ。
そして。トラックが駐まるそのスグ横辺りが、ついこの間までオレたちが並んで商売をしていた場所だ。
けれどももう、背にしていた石垣も、オレのポジションだけ影をつくらなかったその上の木木も、すっかりとり払われ平地に近くなっている。
おそらくはここも、縮尺模型で見たビルの地下駐車場のために、掘り返されたあとでさらに土が盛られてしまうはずだ。
特に感慨もないんだけれど、溜息を一つ吐いてから、馴じみのある石段をとり敢えず駆け上がって行く。
巨漢は物静かな笑いを浮かべていた。一歩、斜めに下がってくれたから、微弱ながらも光が当ってよくわかる。
健やかそうな皓い歯からも、安堵感がもらえた。
「……あ、あの、有勅水さんとも、お知り合いなんですか?」
「あれ? 君こそ唏とも知り合いなのかい」
「はい、って言うか有勅水さんに頼まれて、ディースさんの様子を見に来ただけなんですっ。詳しい説明はまだなんですけれど、今日からその、アルバイトに雇っていただいていまして」
「なんだ、そうだったのか? なら余計なことを言ってしまったな。僕も、そんなはずはないとは思ったんだけどね、ウェブで根気よく索れば、大概の情報は仕入れられるもんだから」
「……はぁ」
「まぁ、とにかくおいでよ、仕事中のディースのあしらい方は僕が教えてあげよう。唏が、君にどこまで話してるのかも確認しておきたいし」
「は、はい……」
男は、セミダブルサイズのベッドマットみたいな背中を向けて、さらに内側の薄暗がりへと踏み入って行く。
返事をしてしまった手前、ついて行かないわけにはいかない。
逃げ出すタイミングも完全に逸しているし、逃げたところで、あっさりと追いつかれ、タックルをブチカマされて敢えなくお終いっぽいし。
でも確認って、一体オレに何を? なんだか物凄くヤバそうな気が……。
無意味だろうけれど、一応警戒モードで、今度は下がり始めたシャッターをくぐり、建設現場内へと踏み込んでいく。
あのムッシューの弟を自称するハンキー(巨マッチョ)が、ここまで来ていたのは、開閉スイッチがシャッターを支える柱に付いているためだった。
入ってスグ右手にプレハブハウスが建っていて、ここ周辺の仄明るさは、その窓の一つから洩れている非常灯の光みたい。
しかし、オレがついて行く先はどうやらそこではないらしく、男はさらに奥に駐車されたトラックの脇で、彫像然とこちらを向いてオレを待ってくれている。
ヘタに機嫌を損ねてもマズい、オレは小走りで急いだ。
何せトラックが、大きめのワンボックスカーにしか見えないときてるんだから。
確実に二メートル超で一〇〇キロ、いや、二〇〇キロも超えていそうな凄まじい体格。あの体で何をされても、オレなんか無事では済みそうにない。
オレが近づくと、男はその巨体を滑らかにターンさせて、ズンズンと石段を上がって行く。
石段だけは、まだ、元のまま残されているようだった。
そして案の定、ただのデカブツではなさそう。
NBAプレイヤーには憧れているもんだから、機敏なビッグマンかどうかくらいは、オレにも一目で判断がつく。
トラックは横須賀ナンバー。コンテナ部分の側面には、まるでブーメランにデフォルメされた大きなカモメのマークとともに
望洋建設
と入っていた。そんなモノで納得するのも可笑しいけれど、ムッシューが着ていたツナギの胸に入っていた黄色い刺繍が憶起される……真実、あの大男は建築屋でムッシューの弟なんだろう。
大兄に小弟と書き表すものの、ムッシューのところは敬譲にすら使えないくらい逆転しているな。
独りっコのオレとしては、ムッシューが例のごとくボサッとしている内に、あの弟さんが、食事のおかずを全部平らげちゃっている場面を想像してしまうけれど、そんなことであんな体格差が生じるとはとても考えられないよねぇ。
そして。トラックが駐まるそのスグ横辺りが、ついこの間までオレたちが並んで商売をしていた場所だ。
けれどももう、背にしていた石垣も、オレのポジションだけ影をつくらなかったその上の木木も、すっかりとり払われ平地に近くなっている。
おそらくはここも、縮尺模型で見たビルの地下駐車場のために、掘り返されたあとでさらに土が盛られてしまうはずだ。
特に感慨もないんだけれど、溜息を一つ吐いてから、馴じみのある石段をとり敢えず駆け上がって行く。