017 _____________________ ‐2nd part‐
文字数 1,608文字
「確かに、俺が住んでるアパートだけでなく、もう二棟の老朽化も結構深刻になってはいる、僊婆も頭が痛かったと思う。とり壊すのは俺たちだけでなく、個人でこれだけの面積、しかも港区の一等地の固定資産税を納める僊婆にとっても死活問題だからな」
恰もこの地の代表者然として語るセンパイに対し、何一つ変わらない微笑みで応じ続ける有勅水さんだった。
「何だぁ、わかってくれていたんじゃないの」
「かと言って建て替えを近辺の業者へ相談すると、僊婆の年齢的に利益率を最優先させたプランばかりで、地域の財産である緑ばかりか自宅までも潰さなくてはならなくなる。娘さんへそれとなく相談してみればと勧めたのはこの俺だが、どうしていきなり遠縁のムッシューやら、あんたV&Mが出張 って来るんだ?」
「ウ~ン、そういきなりでもないんだけど……」
「まぁ僊婆から聞いた話じゃ、娘さんは日本を離れて三〇余年。現在も仕事で多忙な毎日らしくて、生まれた家のことなどまるで関心がなかったみたいだけどな」
「送り続けられていた手紙は娘さん当人ではなく、彼女の御主人の目に留まったの。だから今日、しっかりと煮詰めた回答として私たちが報告する運びとなったわけ、それだけのことなんだけど」
そして芸術家のムッシューも、この土地の再開発についてシカトを続けていた僊婆の娘さんが唯一口を差し挿んだことにより、現在生活しているサンフランシスコ湾東岸のバークレーから呼び寄せられていた。
娘さんは、再開発後の敷地内にムッシューの作品を飾りたいと希望しただけなんだけれど、ニュアンスとしては、それで全てが実現に向けて動きだした感がある。
有勅水さんは、ムッシューのエージェント的な役目もしていたために、順当なのではあろうけれど、V&Mのディヴェロッパー部門の人員に成り代わり全権を委ねられたという次第。
それも、あのムッシューが度を越えた難物でなければ、そこまでの特例措置はなかったそうだから。
殊、創作活動に入ると、あの繊弱そうなムッシューは人格が一変するらしい。
彼を発掘した有勅水さんだからこそ、彼のビジネスパートナーが勤まると言ったところだろうか。
こう聞いてしまえば至ってまともななりゆきだけれど、それでも魂消たのは、僊婆の娘さんはなんとっ、あの僊河青蓮 だなんて言うではないか!!!
昨年度に衣裳デザイン部門で二二年ぶり二度目のアカデミー賞を獲得し、現今ミラノやパリを始めとするコレクションで最も注目されているファッションデザイナー。
その彼女が唯一発表の場としているブランド、セイレネスは、このオレですら清水の舞台から逆バンジーする覚悟でもって、Tシャツ二枚をゲットしたくらいの最先端モード。
シルエットが一味違って、穿き込めば穿き込んだだけいいカンジに色落ちすると評判のジーンズも、セイレネスアッズッロと呼ばれる限りなく黒に近い蒼のヤツを絶対に買うと決めているくらい。
高級ブランドなんか信じちゃいないし欲しくもないけれど、オレにとってもセイレネスだけは別格だ。巷に溢れる陳腐化されたブランドなんかとは、確実に一線を画する意味でのブランドなんだっ。
オレ自身何を熱くなっているのかよくわからんものの、それくらい僊河青蓮のつくる服は支持したいし、実際にオレたちのスグ上の世代からはされまくっている。オレの世代にとってはかなりの高額品、高嶺の花なもんだから。
さらに興奮することに、これまでセイレネスは国内での正規販売店が存在せず、都内でも数件のセレクトショップでしか入手できなかったのだけれど、来月から有名デパートが本格的にとり扱うことが決まっていたから鼻息まで荒くなる。
加えて、来年には直営店のオープン計画まであって、それらを推進するのがV&Mジャポン、それも有勅水さんの所属部署だった。
つまりは、この有勅水さんがセイレネスを日本へ上陸させるといっても過言じゃあない!
恰もこの地の代表者然として語るセンパイに対し、何一つ変わらない微笑みで応じ続ける有勅水さんだった。
「何だぁ、わかってくれていたんじゃないの」
「かと言って建て替えを近辺の業者へ相談すると、僊婆の年齢的に利益率を最優先させたプランばかりで、地域の財産である緑ばかりか自宅までも潰さなくてはならなくなる。娘さんへそれとなく相談してみればと勧めたのはこの俺だが、どうしていきなり遠縁のムッシューやら、あんたV&Mが
「ウ~ン、そういきなりでもないんだけど……」
「まぁ僊婆から聞いた話じゃ、娘さんは日本を離れて三〇余年。現在も仕事で多忙な毎日らしくて、生まれた家のことなどまるで関心がなかったみたいだけどな」
「送り続けられていた手紙は娘さん当人ではなく、彼女の御主人の目に留まったの。だから今日、しっかりと煮詰めた回答として私たちが報告する運びとなったわけ、それだけのことなんだけど」
そして芸術家のムッシューも、この土地の再開発についてシカトを続けていた僊婆の娘さんが唯一口を差し挿んだことにより、現在生活しているサンフランシスコ湾東岸のバークレーから呼び寄せられていた。
娘さんは、再開発後の敷地内にムッシューの作品を飾りたいと希望しただけなんだけれど、ニュアンスとしては、それで全てが実現に向けて動きだした感がある。
有勅水さんは、ムッシューのエージェント的な役目もしていたために、順当なのではあろうけれど、V&Mのディヴェロッパー部門の人員に成り代わり全権を委ねられたという次第。
それも、あのムッシューが度を越えた難物でなければ、そこまでの特例措置はなかったそうだから。
殊、創作活動に入ると、あの繊弱そうなムッシューは人格が一変するらしい。
彼を発掘した有勅水さんだからこそ、彼のビジネスパートナーが勤まると言ったところだろうか。
こう聞いてしまえば至ってまともななりゆきだけれど、それでも魂消たのは、僊婆の娘さんはなんとっ、あの
昨年度に衣裳デザイン部門で二二年ぶり二度目のアカデミー賞を獲得し、現今ミラノやパリを始めとするコレクションで最も注目されているファッションデザイナー。
その彼女が唯一発表の場としているブランド、セイレネスは、このオレですら清水の舞台から逆バンジーする覚悟でもって、Tシャツ二枚をゲットしたくらいの最先端モード。
シルエットが一味違って、穿き込めば穿き込んだだけいいカンジに色落ちすると評判のジーンズも、セイレネスアッズッロと呼ばれる限りなく黒に近い蒼のヤツを絶対に買うと決めているくらい。
高級ブランドなんか信じちゃいないし欲しくもないけれど、オレにとってもセイレネスだけは別格だ。巷に溢れる陳腐化されたブランドなんかとは、確実に一線を画する意味でのブランドなんだっ。
オレ自身何を熱くなっているのかよくわからんものの、それくらい僊河青蓮のつくる服は支持したいし、実際にオレたちのスグ上の世代からはされまくっている。オレの世代にとってはかなりの高額品、高嶺の花なもんだから。
さらに興奮することに、これまでセイレネスは国内での正規販売店が存在せず、都内でも数件のセレクトショップでしか入手できなかったのだけれど、来月から有名デパートが本格的にとり扱うことが決まっていたから鼻息まで荒くなる。
加えて、来年には直営店のオープン計画まであって、それらを推進するのがV&Mジャポン、それも有勅水さんの所属部署だった。
つまりは、この有勅水さんがセイレネスを日本へ上陸させるといっても過言じゃあない!