070 賢者様、それを無体と言うんです…… ‐1st part‐
文字数 1,796文字
「さてー、どーなの楯クン? 少しは、ヴィーちゃんを完全犯罪で殺害する決心の方は固まったかなー」
「そんな決心、固めるつもりはありません毛頭」
「もしも、どーしても遺体の処分がネックってゆーんなら、そこだけボクが手を貸してあげたっていーよ。でもー楯クンからバレた時には、全て楯クンの指示どーりやりましたー、って、罪のなすりつけ共犯のがれ作戦をとるからねー」
「ったくもう、そんなことばっか言って人を揶揄う癖をつけてると、どこの大学に入ろうが、カレシどころか、まともな仲間の一人もできやしませんよっ。今日なんか折角オシャレしてるのに、完全に台ナシです。ホント、オレ相手だけにしといてくださいよね」
「わかってるー。でも、それも大丈夫ー。ボクみたいな人にはフツーの人が黙ってられないから、楯クンからして至ってまともだしー。人間関係ーのバランスって、基本的にそーゆー原理原則みたいだもの」
「……オレ、最初っからカモですか」
「かもかも~? それに、いー服を着るだけがオシャレじゃーないの。今日は、総額で九万七九〇二円を身に付けているけどー、普段のボクだって、お祖父ちゃんの蔵書から一〇万円分以上もの価値ある本を読んで、教養ーってオシャレをキメて出歩いてるんだもの」
葉植さん、そうは言いながら、表情も素ぶりも何 もキマっていないから「…………」
オレとしても何 も言えね~。
「だからー、台ナシになるのは洋服とか靴とかだけで、ボク自身の存立はオシャレなまま、全然損なわれることはないのでしたー」
そうまでおっしゃいますか……。
でも、なんかわかった。葉植さんの強さが。
彼女の無敵さは、好きな事物へ傾倒していくことによって得られる加速力と、そこで吸い上げられた情報や知識で構築される堅牢な理論武装だろう。
しかも、その論理形式は、あくまでも葉植さん主体の選り好みがベースになっているもんだから、多少の小競り合いでは毀損 はおろか、揺らぎさえもしない。
しかも安あがり。リッチな後ろ盾など、あったとしても全く不用。それも葉植さんが自身で実証済み。
ところがチープなだけに、それを採用するに当たっては、得られる強さとの等価交換のように、あるべきモノまでの諦めや削ぎ落としを要求される。
それで疎まれたり、変人あつかいされることになり、嫌な奴と一緒に、好かれたい者までも遠ざけてしまう、言わば両刃の剣の強さだ。
腹をくくれー、決心を固めろー、そう葉植さんは宣 うけれど、そんな覚悟ができるくらいなら、人間関係の難解さに青息吐息をしたりはしない。
嫌な奴だけ遠ざけなくては意味がないっ。
そうでなれば巧くはないし、畢竟 それは気狂いになるのと同義じゃないのか?
だって、それなら、頭が良くなくたって覚悟さえすればできちまう……。
「楯クンはー、またしても何か小難しく、姑息なことやズルを考えてるー。そーやって巧いこと生きるために考えて考えて、心痛・腐心・憂悶・懊悩する無明長夜 な毎日を過すー。きっと敏感関係妄想の傾向があるねー」
「……坊主や精神科医見習いでもなく、クレアヴォヤンス(天眼通 )だったんですか葉植さんは?」
「楯クンがわかり易いだけなの~」
「どうせですよ……」
チッ。オレの軽い戯れ言くらいじゃ、葉植さんのフザケた正論吐きを逸らせもしない。
「まー精神分裂病による妄想と似てるからビビるのもわからなくはないけど、それも好きなことをバーンバンやって嬉しい体験が増えれば簡単に治るから、容体 としておもしろくなーい。そんなでは、あと二年余りの内に自尽 も見込めそーにないし」
「当然ですって! 誰が二十歳までに死ぬもんですか、絶対に、断じて、意地でもオレは死にませんっ。その前に、人をビョーキにしないでくださいよね」
「ウンウン、その調子かな~」
「何ですそれ? 大体バスケ部を引退してからケツも段段フヤケてきてますんで、今日から、ケツを鍛えていそうなトレーニングをやめれば、葉植さんの邪悪な目論見くらい容易く打ち砕けるんですからねっ」
「オォッ、楯クン言ってくれるぅ~」
「これくらい当然です。金の卵を得るためには、まず、それを産むガチョウを丹精込めて育てなくちゃダメだって理屈でウヒャッ!」
──左の尻っぺたを一握りされた、いきなり、思いっきり。
「そんな決心、固めるつもりはありません毛頭」
「もしも、どーしても遺体の処分がネックってゆーんなら、そこだけボクが手を貸してあげたっていーよ。でもー楯クンからバレた時には、全て楯クンの指示どーりやりましたー、って、罪のなすりつけ共犯のがれ作戦をとるからねー」
「ったくもう、そんなことばっか言って人を揶揄う癖をつけてると、どこの大学に入ろうが、カレシどころか、まともな仲間の一人もできやしませんよっ。今日なんか折角オシャレしてるのに、完全に台ナシです。ホント、オレ相手だけにしといてくださいよね」
「わかってるー。でも、それも大丈夫ー。ボクみたいな人にはフツーの人が黙ってられないから、楯クンからして至ってまともだしー。人間関係ーのバランスって、基本的にそーゆー原理原則みたいだもの」
「……オレ、最初っからカモですか」
「かもかも~? それに、いー服を着るだけがオシャレじゃーないの。今日は、総額で九万七九〇二円を身に付けているけどー、普段のボクだって、お祖父ちゃんの蔵書から一〇万円分以上もの価値ある本を読んで、教養ーってオシャレをキメて出歩いてるんだもの」
葉植さん、そうは言いながら、表情も素ぶりも
オレとしても
「だからー、台ナシになるのは洋服とか靴とかだけで、ボク自身の存立はオシャレなまま、全然損なわれることはないのでしたー」
そうまでおっしゃいますか……。
でも、なんかわかった。葉植さんの強さが。
彼女の無敵さは、好きな事物へ傾倒していくことによって得られる加速力と、そこで吸い上げられた情報や知識で構築される堅牢な理論武装だろう。
しかも、その論理形式は、あくまでも葉植さん主体の選り好みがベースになっているもんだから、多少の小競り合いでは
誰が何と言おーが
、ボクが好きなんだから全然いいのー
! こいつは、最強と言うより頑強だっ。しかも安あがり。リッチな後ろ盾など、あったとしても全く不用。それも葉植さんが自身で実証済み。
ところがチープなだけに、それを採用するに当たっては、得られる強さとの等価交換のように、あるべきモノまでの諦めや削ぎ落としを要求される。
それで疎まれたり、変人あつかいされることになり、嫌な奴と一緒に、好かれたい者までも遠ざけてしまう、言わば両刃の剣の強さだ。
腹をくくれー、決心を固めろー、そう葉植さんは
嫌な奴だけ遠ざけなくては意味がないっ。
そうでなれば巧くはないし、
だって、それなら、頭が良くなくたって覚悟さえすればできちまう……。
「楯クンはー、またしても何か小難しく、姑息なことやズルを考えてるー。そーやって巧いこと生きるために考えて考えて、心痛・腐心・憂悶・懊悩する
「……坊主や精神科医見習いでもなく、クレアヴォヤンス(
「楯クンがわかり易いだけなの~」
「どうせですよ……」
チッ。オレの軽い戯れ言くらいじゃ、葉植さんのフザケた正論吐きを逸らせもしない。
「まー精神分裂病による妄想と似てるからビビるのもわからなくはないけど、それも好きなことをバーンバンやって嬉しい体験が増えれば簡単に治るから、
「当然ですって! 誰が二十歳までに死ぬもんですか、絶対に、断じて、意地でもオレは死にませんっ。その前に、人をビョーキにしないでくださいよね」
「ウンウン、その調子かな~」
「何ですそれ? 大体バスケ部を引退してからケツも段段フヤケてきてますんで、今日から、ケツを鍛えていそうなトレーニングをやめれば、葉植さんの邪悪な目論見くらい容易く打ち砕けるんですからねっ」
「オォッ、楯クン言ってくれるぅ~」
「これくらい当然です。金の卵を得るためには、まず、それを産むガチョウを丹精込めて育てなくちゃダメだって理屈でウヒャッ!」
──左の尻っぺたを一握りされた、いきなり、思いっきり。