252 _______ ‐2nd part‐

文字数 1,618文字

「もっと年相応の格好をしなよとか、奔放な行いを慎まないと将来やって行けないだとかね。オマケに、彼は妙な部分でカンが良かった」

「そうなんだよ、あいつ。モラハラじみたことを、無自覚で指摘しやがるタイプ……」

「ウン。彼は、ボクが運んでいた冷蔵庫や、道玄坂で出会い頭になったボクと一緒にいた人物のことで、ボクが、恥かしさから知らん顔を貫いていると、自分に都合好く解釈をしていたようだ」

「…………」

「だが、その彼の思い過ごしは、ボクの臑キズを衝いていたんだ。ボクは既に、やはりウザ苦しかった男を一人、始末してしまっていたもんだからね。実際、一人殺して別段何も感懐がなかったもんだから、二人目もどうとゆうことはないカンジさ」

「……それって、責丘さんって人じゃぁ……」

「あは、どうやら完全に平静を取り戻したようだね楯クン。責丘來太(せきおか・らいた)は、広場の仲間で、唯一ボクを男と察していた変態野郎だ。責丘も独り善がりに、ボクの女装を黙っててやるからと、髪を好きなだけ触らせろって、フェチな肉体関係を強要して来たんだ」

「なっ……」

「ボクはバレたって一向にかまいやしないのに、責丘もまた、それをボクの開きなおりだと誤解してさ。逆にボクが自らカミングアウトしまっては、強請(ゆす)るネタが消失するから、それはもうネチネチと執拗に攻めてきたね」

「…………」

「ボクは何も、同性愛者を須らく変態だと見なしてはいないよ。人を好きになる感情に、女性だ男性だとゆった判断が入るのは二の次だろうし。サッカーでゴールを決めたあとみたいに、どうにも高ぶって汗塗れの同性相手に、抱きしめたりキスしてやりたくなるって感情も理解できる」

「…………」

「楯クンのおケツみたいに、ボク個人にとって堪らない感触の持主が、偶偶男だったってこともある。単にそれだけのことなんだけど、突き詰めれば、いずれも、性的魅力には変わりがないようにも思うし。それに、厳密に言うと責丘は、同性愛者でさえもないんじゃないかな」

「…………」

「ペドやサドも強烈に入り交じったストレートの黒髪フェチで、単に、自分の一次的欲求と直結している好奇心からの邪欲を抑えきれない、抑えようともしない異常性があるだけときた。奴のような人間こそ、本当に頭が悪いとか、頭がおかしいって言うんだとボクは思うよ」

「じゃぁ……冷蔵庫で運んでいた中身ってのは、やっぱり……」

「ボクからは、チョットした脱線も許してもらえないのかな? 勿論、責丘の遺体だよ。空き家になった庭先に、まだ使えそうな冷蔵庫が放置されているって、責丘が教えてくれてさ。今思えば、それが全ての濫觴(らんしょう)だ」

「濫觴……」

「所謂ブロークン‐ウィンドウ理論ってヤツだね。どう見たって完全な私邸なのに、誰も住んでいる気配がない上、ガラクタが庭に放置されているのが見えると、そこはもう誰もが無関心な管理されていない場所で、勝手に侵入して、自分も好き勝手していいんだと、誤認する者が現れてしまう」

「…………」あぁ、破れ窓理論とも言われる? あれか。

「特に社会への不満や怒りがある人間は、そうしたことへの罪悪感が少なくて、そんな町の破れ目を見つける毎に、そこでやらかす犯罪もエスカレートし易い。そして、そんな小さな破れ目から、町の秩序は荒廃してゆくんだ、本当に」

「…………」

「ボクも、その豪邸と呼ばれていたであろう空き家の地下室でね、死ぬ寸前までの強姦を受けた。だから責丘を殺して、九死に一生を得たんだ。まぁ、その話は、これくらいで楯クンも納得できるでしょう?」

「…………」

「死にそうなのに、必死で完璧な証拠隠滅を図ったその空き家も、今は建て替えられてしまっているから、緑内昴一郎を殺した時点でももう、この、人を法律による罪と罰で縛ろうとする世界では、なかったも同然な殺人だよね。第一、責丘に関しては、歴とした正当防衛と認定されるもの」

「…………」

 でも葉植さん、以前に、正当防衛はリスキーだとか言ってたけれど?
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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