296 腹と尻のビミョ~な違い ‐1st part‐

文字数 1,316文字

 ──明王どもの正面まで来た時点では、オレとの距離はまだ二〇メートル以上あった。
 これなら、本館の建物が遮ってくれる場所へ入る間に、呼び止められることはない。

 とり敢えず明王どもには、右手を顔の高さまで上げて、無視していないことだけは表明しておく。
 あとは、本館の入口へと、逃げているようには見せずに急ぐのみだ。

 グアスタさんの容体が急変したため、ミラノたちが送別会どころか、挨拶もできずに出国したことを説明したり、根上の葬式計画の進行状況を報告されるのも御免だし。
 もうオレは、スッパリこんと新年度を生きることを、意に決しているんだからっ。

「チョット水埜! 何をいきなり逃げてるのよっ」

 げぇ~っ。草豪めがっ、こんなキャンパスの実質的中心でそんな大声で。
 ──周りまでが、何事かとビックリしちまってるじゃねぇか!

 しかも、草豪の視線の向きから、オレに発せられた呼号だとわかると、みんなが、オレへ訝しげな眼差しを向けてくる……。
 ったく、これで返事もせずに速歩きを続けたら、完全に逃げてるヤバい奴じゃんかよっ。

 オレは不本意ながらも、草豪の戯事(たわぶれわざ)につき合うしかない。

「年度始めから喧しいんだよっ、このドアホゥがぁ!」と、超高速フル回転で考えた結果、できるだけ明るく応じるしかなかった。
 特に

の部分には、単に親しみを強調しているだけなんだと、注意することも忘れずに。

 ホンット神経を使うけれど、これでどうにか、行き交いの空気が正常化してくれそうだ。

 しかし──。
 そんなオレの顧慮など、放念しきっている草豪に酌み取れるはずもなかった。また一人図にノり、毎度のシニカルな顔つきでもって駆け寄って来やがるぅ。

 どうも、

への、親しみの込め方を失敗ったみたい。
 それに草豪の服装、気づけば、今のオレと同ラインの、テクノストレッチ素材を使ったブルゾン!
  恥じぃ~、色や着丈からのシルエットこそ違えど、質感は全く一緒。セイレネスフリークから見れば、おソロで着てると誤解されちまうじゃんかよっ。

 ──「何でこんなトコを彷徨いてるのよ? 指定された教室にも、廊下の人込みにも見当たらないと思えば」

「……別に。親友が入学したんで、チョット学内のことを教えてあげてただけだ。学生証は、これからちゃんと更新しに行くし」

「ハハ~ン、あんた今年もズルしたわね?」

「してねぇよ。今年もって、一体何の言いがかりだよっ?」

「じゃぁ何で本館なんかに向かってたのよ? 事務局へ行こうとしてたクセに。去年だってガイダンスのあと、さっさとフケたの憶えてるわよ。私は天眼通の地獄覚えなんだから」

「思い込みからの誤解じゃねぇの? 宝婁センパイに頼まれただけだ、センパイも今週末にNYへ発つから。その、いろいろと、こまごました手続きのための書類があるんだっ」

「な~んか相当怪しいけど、まぁいいわよ。とにかくさっさと、その書類とやらをもらって来れば? ここで待っててあげるから」

「な! 何で草豪がここで待つんだよ? オレはそのあとだって走りに行くから、忙しいんだってぇのっ」

「はぁ? 水埜は、性懲りもなくミラノさんたちから、置き土産でまでハメられてるわけ?」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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