219 ____________ ‐2nd part‐
文字数 1,432文字
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その晩までもが横紙破りに、全費用オレもちで、すっかりうち解けたおハルを囲む、夕餉 の宴が開かれることになってしまった。
里衣さんも、いきなりのことにもかかわらず、バリバリ歓待ムードで、鴨肉を使う治部煮鍋なんかにしてくれちゃうもんだから、すき焼きやしゃぶしゃぶよりも手痛い出費。
おハルには、
まぁ、いつもは、目上の皆様方から御馳走になっているわけだから、返せる時に恩を返しておいた方がいいんだけれど、なんだかねぇ。
とにかく、五〇〇万は崩さないようにしなければ!
ミラノから、心苦しいこれまでの身の上と、とぼかしい、これからの身のふり方を聞いてしまったからには、オレはもうお大尽でも何でもない。
ミラノの生活を、どこまでオレに守れるのかはわからないけれど、どうにかできるのはオレしかいない。
それに、ジェレさんに送られて帰ってきたミラノはなんと、ウチまでクルマに乗っていたわけなんだから、いよいよもって運転免許と、延いてはマイカーへの欲げも昂じてしまう。
無論、ジェレさんの愛車は五〇〇万でも足りないけれど、ルーフが開くオープンカーなら、ミラノには何の支障もないと言うから、中古車や軽自動車だって用は足りる。オレにだって、夢物語にまではならないように思えてしまう。
手を引いて出かけるのには慣れたけれど、そんな長閑やかにしていられるのは、今の内だけなんだし……。
──おハルを囲む宴に、参加してもらえることになったジェレさんを、近くのパーキングまで案内した戻りの道すがら、どこまで答えてもらえるかはわからないけれど、ミラノのことを聞いてみる。
「あのオレ、詳しくは知りませんけれど、ミラノってこれからどうなるんでしょう? もうNYには、誰も待っていないみたいだし、イタリアへも帰れないカンジなんですよね。ジェレさんはその辺のこと、何か聞いていませんか?」
「ミラノがそんな風に? でもミラノは、一度ミラーノへ帰らなければなりませんよ。また楯さんたちと、東京で暮らす手続きのために」
「へっ? やっぱりそうなんですか! でもガチにどうしよう、オレまだ臑齧りのビンボー学生だし、普段からバイトに精を出したら卒業なんかムリだし、中退したら一段と就職なんてムリムリだし、預金を使い果たした途端に、共倒れ人生驀地なんですけれどっ」
そう訴えると、ジェレさんはやはりイタリア人らしく快快と笑う、オレはマジのガチだってのに。
「お嬢さんたちが話していないんでしたら、私からも詳しい話はひかえましょう。けれど、ミラノもトリノも、まだまだ若くて頼りなげには見えますが、去年漸く二十歳を迎えて──」
「へぇえ! ミラノは二十歳なんですかっ」
オレより二つも歳上? あれで? あっ、いやいや、これをミラノにキャッチされてたらマズい……。
「そんなことさえ話していないんですか? お嬢さんたち」
「……えぇまぁ。オレからも、なんか聞かなかったんで……」
「それなら、楯さんが深刻に心配をしなくてもいいと言うことだけ、お話しておきましょう。お嬢さんたちは、既にセイレネス事業部にとって、なくてはならない、優秀なアートディレクターたちなんです」
「……って、働いてるってことですか、セイレネスで?」
「えぇ。ですから、ヴィザの問題と一緒に、こちらで働くための諸事を片づけてしまえば、ミラノは、NYにいた時と同様の生活が続けられます」
「なんだぁ、そうなんだ……」
その晩までもが横紙破りに、全費用オレもちで、すっかりうち解けたおハルを囲む、
里衣さんも、いきなりのことにもかかわらず、バリバリ歓待ムードで、鴨肉を使う治部煮鍋なんかにしてくれちゃうもんだから、すき焼きやしゃぶしゃぶよりも手痛い出費。
おハルには、
ホントのカモだワ
なんて、大笑いされる始末だし。まぁ、いつもは、目上の皆様方から御馳走になっているわけだから、返せる時に恩を返しておいた方がいいんだけれど、なんだかねぇ。
とにかく、五〇〇万は崩さないようにしなければ!
ミラノから、心苦しいこれまでの身の上と、とぼかしい、これからの身のふり方を聞いてしまったからには、オレはもうお大尽でも何でもない。
ミラノの生活を、どこまでオレに守れるのかはわからないけれど、どうにかできるのはオレしかいない。
それに、ジェレさんに送られて帰ってきたミラノはなんと、ウチまでクルマに乗っていたわけなんだから、いよいよもって運転免許と、延いてはマイカーへの欲げも昂じてしまう。
無論、ジェレさんの愛車は五〇〇万でも足りないけれど、ルーフが開くオープンカーなら、ミラノには何の支障もないと言うから、中古車や軽自動車だって用は足りる。オレにだって、夢物語にまではならないように思えてしまう。
手を引いて出かけるのには慣れたけれど、そんな長閑やかにしていられるのは、今の内だけなんだし……。
──おハルを囲む宴に、参加してもらえることになったジェレさんを、近くのパーキングまで案内した戻りの道すがら、どこまで答えてもらえるかはわからないけれど、ミラノのことを聞いてみる。
「あのオレ、詳しくは知りませんけれど、ミラノってこれからどうなるんでしょう? もうNYには、誰も待っていないみたいだし、イタリアへも帰れないカンジなんですよね。ジェレさんはその辺のこと、何か聞いていませんか?」
「ミラノがそんな風に? でもミラノは、一度ミラーノへ帰らなければなりませんよ。また楯さんたちと、東京で暮らす手続きのために」
「へっ? やっぱりそうなんですか! でもガチにどうしよう、オレまだ臑齧りのビンボー学生だし、普段からバイトに精を出したら卒業なんかムリだし、中退したら一段と就職なんてムリムリだし、預金を使い果たした途端に、共倒れ人生驀地なんですけれどっ」
そう訴えると、ジェレさんはやはりイタリア人らしく快快と笑う、オレはマジのガチだってのに。
「お嬢さんたちが話していないんでしたら、私からも詳しい話はひかえましょう。けれど、ミラノもトリノも、まだまだ若くて頼りなげには見えますが、去年漸く二十歳を迎えて──」
「へぇえ! ミラノは二十歳なんですかっ」
オレより二つも歳上? あれで? あっ、いやいや、これをミラノにキャッチされてたらマズい……。
「そんなことさえ話していないんですか? お嬢さんたち」
「……えぇまぁ。オレからも、なんか聞かなかったんで……」
「それなら、楯さんが深刻に心配をしなくてもいいと言うことだけ、お話しておきましょう。お嬢さんたちは、既にセイレネス事業部にとって、なくてはならない、優秀なアートディレクターたちなんです」
「……って、働いてるってことですか、セイレネスで?」
「えぇ。ですから、ヴィザの問題と一緒に、こちらで働くための諸事を片づけてしまえば、ミラノは、NYにいた時と同様の生活が続けられます」
「なんだぁ、そうなんだ……」