256 ________________ ‐3rd part‐

文字数 1,351文字

「だから、これまでの生活をこれからも続けられるか、逃亡者になるか、その裁断を、楯クンに委ねることにする」

「…………」ウッソ。そんなこと、オレに委ねられたって!

 けれど、沈黙は黙受、承諾したことにされてしまう。かと言って、オレは何を、どう納得すれば──。

「実はね。ボクと殺人とを結びつけることになる物証は、ある一点を残して、完全に隠滅したんだが……その一点、少しばかり遊びがすぎてしまったようなんだ。その時には、妙案だと思っていたんだけどね」

 葉植さんの表情と口調には、これと言って何の動きも変化もないんだけれど、なんだか、諦めではなく、口惜しさみたいなモノを察することができた。

「……何なの、それって……」

「ウン。楯クンが広場の仲間に加わってから、ボクが売り出した作品『バロック‐タナトス』と『チェイン・オブ・エヴィル』シリーズの一部には、責丘の死体から(こそ)ぎ出した脂肪を、油脂として材料に使わせてもらったんだよね」

「……油脂って、そんな……」

「だから、楯クンの誕生日にプレゼントしたモノは、ボクが殺人を犯したスモーキングガン、犯罪の決定的証拠ってヤツになるかもだ」

「ウソォ……」

「例の縦縞のキャンドルだね。あれは、つくるのに横縞の六倍、斜め縞の三倍の手間がかかるとゆう以上に、特別な代物だったんだ。ここの鍵を開けたのもボク、だから密かに回収することもできたけど、楯クンが、大切に保管してくれているのを見つけてやめたんだ」

「…………」

「買ってくれたほかの客たちの中にも、目で飽きるまで使わない人が多いみたいだからね、それを、ミラノ嬢に告発されたらマズかったと言うわけなんだ。こんな暴露を聞いたあとでは、所有しているのが嫌になるかもしれないけど、捨てるも警察へ持ち込むも、それは楯クンの好きにすればいいよ」

「…………」

「責丘の残りカスは、調理して、この辺りのカラスや飼いイヌにあげちゃった。責丘は、イヌで獣姦していたことが親にバレて、勘当同然に家を出ていたんだ。知り合いから預かっていたアフガンハウンドを、絶頂のあまり絞め殺してしまってね」

「…………」

「それに責丘は、生活が窮迫すると、カラスを捕獲して喰ってたから。動物たちへの弔慰のために、還元したとゆうわけ」

「…………」

「カツオ風味が気に入ったのか、イヌに投げ与えた骨までを、食べもしないのにカラスが掠めとったみたいでさ。それをまたどこかの庭先に放置したことが、楯クンも、小耳にはさんだかもしれないけど、ここに纏わる妙な噂の尾ヒレになってしまったみたいだ」

「あぁ……えぇっ?」

「大丈夫。それらの骨はDNAが採取できない状態だし、人骨だなんて、疑われない配慮もしていたしね。どっぷり平和漬けな日日からの、強烈な正常化バイアスも働くから、骨っぽいと思っても、思うだけでさ。自分の敷地外へと蹴り退かされて、いつの間にかどこかへ消え失せるのがオチだもの」

「…………」

「それこそ、警察のウザさが脳裏によぎれば、チョットした疑いだけで通報するなんてこと、道理があるはずもないんだよねー」

 葉植さん、語尾をいつものように間延びさせたけれど……何を一体、どこまで先のことを考えていたのか? 
 オレには全くわからないから、これも単なるオレへの洒落にすぎないと思いたいぃ。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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