210 _______ ‐2nd part‐

文字数 1,988文字

 草豪も、なんだか初めての、何とも言えない表情を見せやがる。

「それは……申しわけ、なかったわよ。何で緑内まで出てくるのかわからないけど。でも、私はダメだったけど、理知華は選ばれたわよ。やっぱさすがよね、別に、今回は悔しくも何ともないけど、完敗だわ」

「剣橋が選ばれたって、ヴィーも選ばれちまってたら意味ないだろがっ」

 クゥ~ッ。何で殺された緑内っ。
 どうしてワザワザ、殺されになんか行ったんだよ根上ぃ──。

「チョット、大丈夫なの? 悪かったわホント、確かに今回は浮ついてた、反省するわよ。でも私のことより、水埜の結果はどうなのよ? 私が渡したデータをちゃんと使って、最後にアドヴァイスしたとおり、修正してからアップしたんでしょうね?」

「ウルセ~ッ。オレのことなんかどうでもいい、最初から頭数に入れてねぇんだよ。でもおまえはしっかり入ってたんだ、確実に今回の特待生選出の基軸になってくれるってな。おまえさえ選ばれてたら、こんなパニック起こさずに済んだんだ。どうしてくれる? って言うかモォ~、どうすりゃいいのかわかんねぇよオレには!」

 本当にわからない。恐れていた絶対にあり得ない、あっちゃならない結末を、こうして本当に迎えてしまうだなんて──。

「ゴメン……ゴメンね。ふぁ~ん、私がいけなかったわよぉ」

 っと! 草豪はいきなりオレにタックルして来やがった。
 それにどうも、鋭い如夜叉(にょやしゃ)の両目には、またもやあり得ない、涙なんかを浮かべているような……こいつは一体、またどういう展開なんだっ? 

「どしたんだよ急に?」

「……水埜こそ、何避(  よ)けてんのよっ。私が人前で泣くなんて、八年半ぶりのことなんだからねっ、それもまた水埜なんかの前で。チョットくらい、その薄っぺらい胸を貸してくれたっていいじゃないのよっ」

「へっ? だってそりゃつい──うぉっ」

 おいおいチョット! 
 泣きたいのも崩れ落ちたいのもオレの方だってのに……それも、八年半前には、オレのDNAにも潜んでいる自殺誘発形質が伝染るって騒ぎ立てて、オレにしつこくエンガチョしていた草豪が、目下オレに思いきり抱きついていやがるぅ──。

 これまた何なんだ一体全体? このとんでもない急展開は! 

「……ゴメン。ホント、ゴメンね、水埜……」

「おい草豪、泣くな。とにかくしっかり立て。オレに縋るなんてどうかしてるだろ、いつものムカつく強気と自信はどした?」

 ……なんか、同じアイテムを着ているために、草豪の感触がミラノと似ていて、ヤケに焦ってきちまう。

≪ミラノ、これも事故事故、完全な不可抗力です。草豪相手に、誤解なんかしちゃダメダメだからね絶対っ≫
 とにかく、そう強く念じておくしかない、この想定外も外な状況は。

 むぅぐっ! ──お次は骨盤辺りに、鈍重な衝撃が……。

「チョッ、何、突然? 今度はどしたって言うのよ?」

「腰、腰が……知らんけれど痛っ……」

 この強烈な痛み、草豪を投げ出して身悶えたいものの、そうもいかない。
 今、草豪ナシでは、オレが膝を突いちまいそうだっ。

 ──草豪と絶妙なくらい支え合いながら、オレは腰骨の出っ張り部分を摩り摩り、首をまわして、その、足元にボテッと落ちた、オレに激痛を与えたと思われる原因を直視で確認……。

 きちんと包装してあって、何かがはっきりしないけれど、どうも辞書の類っぽい。
 それも、広辞苑か六法全書くらいブ厚くて、さらに一まわりほど版が大きいカンジ。

 こいつが、オレを直撃しやがったのか? こんなの、痛いのも当然だろがっ。

 そして、そのまま後方、本館の出入口がある方向へと視軸を上げてみる。そっちから飛んで来たはずだから。

 するとどうだ、ビシッと、紺のクロースフィッティングなパンツスーツに身を包み、髪も後ろでヒネり上げ一つに纏めたヴィーの奴が、ここでも仁王立っていやがった。

 肩をイカらせている力みが、全身まで鯱張らせているカンジで、オレのことを忌忌しげに睚眥(がいさい)している。
 イマイチ迫力に欠けるのは、始めて目にするナチュラルメイクだからか?

 ……しっかし、このマッシヴな本を、あの位置から一〇メートル近く投げた上、オレに命中させたってか?
 にわかには信じられないけれど、そこはヴィー、現在も尚ズキズキとカンジられている腰からの痛みが、何よりの証拠だし。

「おい、どう言うつもりだよヴィー、こんなの投げつけやがって。オレを殺す気か? 何の恨みがあるってんだよ、また今回も特待生なんだろ。せめて本館の前でくらいは、それっぽくしろよな、カッコばっかじゃなくってよっ」

「さっき水埜が跳び上がったのは、これが当たったからなわけ? あそこから投げつけたのあのコ? 腰、大丈夫なの水埜?」

 草豪にしては遅すぎるけれど、漸く状況を把握し終えたみたい。まぁ、それだけ、常識を枠からブッ壊してるモンスターじみた所業だろうし。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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