138 ___ ‐3rd part‐

文字数 1,695文字

「それに、大学や近所の図書館では、既に貸し出し中のモノが大半だろうからな。買い集めるとなると、古書でも結構な額が必要になる。わかっているはずだ、大したことじゃない。僕らもほとんどを、金銭的に解決しているだけなんだからな」

「はい。……どうもありがとう御座います。でも、ヴィーはそんな何日も帰りたくないほど、ヘソを曲げているってことなんですよね?」

「いや。どうやら不品行な知り合いが、昼間から飲んだくれているような店へ寄って、些細な事故を起こしたらしい」

「えっ?」

「大丈夫だ。何も初めてのことじゃない、自分で処理しきれないことがあると、前後の見境がなくなるんだな、あのお嬢サマは。それで軽いケガをしたようだ」

「ケガまで? ったく、あのアホデカお嬢はぁ……」

「まぁそれも、これからを生きるための確認行為だな。彼女も、社会の荒波に揉まれているだけのことだ、君より急速に過激ではあるけどもな」

「はぁ……ですか?」

「ある意味それも贅沢病の症状の一つ、カネでつながった友人関係も病魔と言うことだな。ここで暮らすようになってからは、プッツリと止んでいたんだが、再発してしまったようだな」

「……それって、やっぱりオレたちのせいなんでしょうか?」

「違うな。もう君が気に病む段階ではないし、彼女自身の問題だ。本当に深刻な状況ならば、君にこんなことを話したりしないな」

「ヴィーが、どうかしたした? PSのオジサン」

 ちょうど観ていた番組が終わったのか、TVを消してミラノさんもこちらへとやって来た。

「オジサンって、鵠海さんに失礼でしょミラノさん」

「人間はね、年齢じゃないんだよ水埜楯。この人は、見た目以上に中身がカチンと完成しちゃってる。その若さで、もう全然とり返しがつかないスペシャリストなんだよ」

 オレの注意などおかまいなしに、これまた躊躇も遠慮もなく鵠海氏の手をとり握って、自分よりも背が低い相手に対して、嬌稚(きょうち)に小首を傾げて見せるもんだから、鵠海氏の方がたじろいでいる。

「まいったな。まぁ心配は要らないよお嬢さん。ヴィーさんはオイタをしたから、しっかり勉強が終わるまでは、一緒に遊べなくなったんだ」

「フーン、そうなのなの? じゃぁヴィーにヨロシクね。オジサンも、偶にはお仕事じゃなく遊びに来る来る。いくら若い人の相手をしてたって、一緒に遊ばないと、若さは固まっちゃうんだよ」

「はは、御忠告どうも。機会があったらそうさせていただこうかな」

 鵠海氏も両手でしっかりと握手しなおして、結構嬉しそうな笑顔を見せてくれているから、ミラノさんには敵わない。

 鵠海氏も、一人のまだ若い男だと知ることができて、オレとしてはかなり安心できちゃったな。
 優秀すぎる歯車にも、オレにだって理解のできる感情があるってことだからねぇ。

「ウンウン。だけどその時に、いくら勿体ないからって、余りモノのフルーツやお菓子を、使いまわしで持って来たらダメダメだよ」

「なっ……ホントまいったな。わかりましたよお嬢さん、あなたの好きなトゥティフルッティのアイスクリームでも、きちんと買って伺うことにしましょう」

「ウンウン、私が大好きなのはダムソンとサルタナ入りのだよ。でも風味付けにラムなんか垂らしてあったりしたら最悪なんだよ」

 ミラノさんと鵠海氏、オレの知らない内に存外親しくなっちゃってたみたい。

 そして鵠海氏は、自分の黒革のビジネスバッグを、空気抵抗を減らそうとするかのように抱えて、せかせかとウチを出て行った。
 これからトリオの女性陣がヴィーを落ち着かせるのを待って、栃木の実家まで連れ帰ることになるそうだから大変だ。

 ヴィーの奴もつくづくおバカ。オレの、漸く実を結んだビジネスをまのあたりにしたくらいで、何をそこまで荒れる必要があるんだか?

 いくら軽くたって、ケガをするほど暴れるなんてのも、やっぱり贅沢。
 ヴィーみたいな紛華(ふんか)三昧なお嬢ともなると、自棄グルメや自棄ショッピングでは、日常茶飯事すぎて、大してガスぬきにはならないってことだろうな。

 かまぼこプレブス(板についた下民)のオレとしては、とてもとても、同情すらもできそうもないね。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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