261 ___________________ ‐2nd part‐
文字数 1,383文字
「それは、話さなくていいですよ。ミラノとトリノさんが納得しているなら、それでいいしオレは……」
「そう? だけど恐怖も苦痛もカンジる間すら与えず、絶命さえたことは間違いない。そもそも、あのコを家へ招き入れたのも僊婆だし、屋根裏部屋で、古いレコードなんかを聴かせてやったりもしたから、階段なんて格好の場所で仕留められてしまったんだ」
「……だから、いいです、ホント……」
「ウン。阻止できなかったのは本当に申しわけなく思ってる。ミラノ嬢たちも、一面識もない僊婆を、お祖母ちゃんとして認識できていないんだろう。だからギリギリ、こうして敵にまわさずに済んでいるんだと思うよ」
「…………」
「それに、田宮謡のリサイタルに合わせるみたく死者が出ていることに、深い意味などないんだし。無論、呪いにつながるような因縁や怨恨なんかも、あのコと田宮謡の間には存在しないよ。単に田宮謡の人気が、去年辺りから、絶頂期を迎えているだけのことなんだろう」
「……その、意味が、よくわかないんですけれど……」
「ん~。歌とゆうのは、人間にとって、最も単純かつ平易で元始的な慰藉 だよね? のんべんだらりと、命終 を待ち侘びている生ける屍にだって、歌を聴き、それを口遊もうとするくらいの、歓楽心は残っているもんさ」
「…………」なんか、いきなり耳に痛いんですけれど、オレには。
「聴き憶えのある歌を唄う見憶えのある歌手が、近所にやって来てくれるとなれば、普段は億劫で、上げるべき腰すら上がらない死に損ないどもまでもが、一つ観に行こうかと街へと繰り出すことになる。当地に後援会があれば、リサイタル前から盛り上がりだして、プリイヴェントなんかも催される」
「…………」
「またあとには、その余韻から、田宮謡の歌をアレンジして、客寄せをするストリートミュージシャンなんかも現れるから、ターゲットを選び出すには、好適とゆうわけじゃないかな? ボクは、群馬や栃木くんだりまで出かけて行ってそう思った」
「……やっぱり葉植さん、そのコのストーカーだったんだね。そのコが殺人をするのまで見守るような」
「ストーカーはヒドいなぁ。まぁボクも始めは勝庫織莉奈のように、あのコの跡をつけたりはしたけどね、でもコソコソは一切していないんだから。それに、あのコがなぜ、そんな間怠い手順をワザワザ踏んで殺すのかは、ボクにも謎だ。今後も教えてはもらえそうにないし」
「……そうなの? どして……」
「いやぁ、何しろボクの純然たる一方的な思慕なんで。立ち入った真似をして嫌われるのは嫌だし。ほら、ボクって、自分でもしつこくすることができないほど、しつこいのが嫌いんだよね」
葉植さんは口角を上げて見せるものの、まるで笑顔になっていなかった。
笑っているようにカンジられた先ほどが不思議でならない。
「……そうなんだ?」
「とまあ、これで、ボクが話せるあのコについては、全部話したことになる」
「……あ、うん……」
「満足いかない点が多いことは承知の上だけど、本来ボクが話せるのは、ボクが犯した殺人のみで、楯クンに知る権利があるのも、緑内昴一郎と根上翔輔の二件だけだ。それを考えれば、ボクはかなりのサーヴィスをしているよ」
「…………」
相変わらず真顔だけれど葉植さん、なんだか今また、微笑んでいるように見えちゃうから、不思議……と言うよりは不気味で、どうにもビビる~。
「そう? だけど恐怖も苦痛もカンジる間すら与えず、絶命さえたことは間違いない。そもそも、あのコを家へ招き入れたのも僊婆だし、屋根裏部屋で、古いレコードなんかを聴かせてやったりもしたから、階段なんて格好の場所で仕留められてしまったんだ」
「……だから、いいです、ホント……」
「ウン。阻止できなかったのは本当に申しわけなく思ってる。ミラノ嬢たちも、一面識もない僊婆を、お祖母ちゃんとして認識できていないんだろう。だからギリギリ、こうして敵にまわさずに済んでいるんだと思うよ」
「…………」
「それに、田宮謡のリサイタルに合わせるみたく死者が出ていることに、深い意味などないんだし。無論、呪いにつながるような因縁や怨恨なんかも、あのコと田宮謡の間には存在しないよ。単に田宮謡の人気が、去年辺りから、絶頂期を迎えているだけのことなんだろう」
「……その、意味が、よくわかないんですけれど……」
「ん~。歌とゆうのは、人間にとって、最も単純かつ平易で元始的な
「…………」なんか、いきなり耳に痛いんですけれど、オレには。
「聴き憶えのある歌を唄う見憶えのある歌手が、近所にやって来てくれるとなれば、普段は億劫で、上げるべき腰すら上がらない死に損ないどもまでもが、一つ観に行こうかと街へと繰り出すことになる。当地に後援会があれば、リサイタル前から盛り上がりだして、プリイヴェントなんかも催される」
「…………」
「またあとには、その余韻から、田宮謡の歌をアレンジして、客寄せをするストリートミュージシャンなんかも現れるから、ターゲットを選び出すには、好適とゆうわけじゃないかな? ボクは、群馬や栃木くんだりまで出かけて行ってそう思った」
「……やっぱり葉植さん、そのコのストーカーだったんだね。そのコが殺人をするのまで見守るような」
「ストーカーはヒドいなぁ。まぁボクも始めは勝庫織莉奈のように、あのコの跡をつけたりはしたけどね、でもコソコソは一切していないんだから。それに、あのコがなぜ、そんな間怠い手順をワザワザ踏んで殺すのかは、ボクにも謎だ。今後も教えてはもらえそうにないし」
「……そうなの? どして……」
「いやぁ、何しろボクの純然たる一方的な思慕なんで。立ち入った真似をして嫌われるのは嫌だし。ほら、ボクって、自分でもしつこくすることができないほど、しつこいのが嫌いんだよね」
葉植さんは口角を上げて見せるものの、まるで笑顔になっていなかった。
笑っているようにカンジられた先ほどが不思議でならない。
「……そうなんだ?」
「とまあ、これで、ボクが話せるあのコについては、全部話したことになる」
「……あ、うん……」
「満足いかない点が多いことは承知の上だけど、本来ボクが話せるのは、ボクが犯した殺人のみで、楯クンに知る権利があるのも、緑内昴一郎と根上翔輔の二件だけだ。それを考えれば、ボクはかなりのサーヴィスをしているよ」
「…………」
相変わらず真顔だけれど葉植さん、なんだか今また、微笑んでいるように見えちゃうから、不思議……と言うよりは不気味で、どうにもビビる~。