305 嬰ル逆鱗二 ‐1st part‐

文字数 1,208文字

 鞘から、刃を絶対に抜かせちゃダメだっ、けれど……どうする!

 とり敢えず逃げるにはオレが有利、ヴィーが階段をここまで降りきる間に、オレはテラスの端まで行けるはず。
 そしてさらに階段を下れば、もうヴィーには完全に追い着けやしない。ハイヒールを脱いで裸足になられたって、脱いでる間に今より距離が空けられるっ。
 脱がれたら、また投げつけるんだろうから、そこだけは注意しとかないと……。

「おい、とにかく落ち着けよ。オレはちゃんと話を聞くし、説明もするから」
 しかし! そう言っている間にヴィーは鞘を抜いて刃を出しやがったっ──。

「……ぅう~……」

 見るからに本物。しかも、その輝くブレードの質感は結構高級そう、凶刃(きょうじん)と化しちまう可能性は充分だ……。

 しまったぁ、投げつけられることを考えると安易には動けなくなっちまった。躱すためにも目は離せない、とても背中を向けてなんか走れない──あぁっ!

「何するんだっ、やめろバカッ」

 ヴィーは両手でナイフを握り、震わせながら自分の首に近づけだした。

 オレはもう恐怖心など吹き飛んじまって、ヴィーへとダッシュでその手首に跳びつく。

「離せぇ……死んでやるんだからっ。楯の前で死んでやる!」

「何でだよ……オレが何したっ? 何で、ヴィーが死ぬんだっ」

「……楯がぁ、何もしないからっ」

 くぅ~っ。案の定、物凄いクソ力だ。
 オレがぶら下がるような体勢で、ナイフをヴィーの手首ごと首筋から引き離そうしているのに、若干は刃先が首から離れたものの、ヴィーが完全に肘を伸ばしきってくれるまでには至らない。

 ナイフの柄を握り締めているヴィーの指をほどこうにも、これでは、オレが少しでも力をぬいた途端に、鋭刃が、ヴィーのノドに突き刺さってしまいそうな勢いがあるし……。

 でもこの力比べ、寝込んで一気に体重も減ったオレに、果たして勝てるんだろか?
 誰かこっちへ下りて来てくれればいいんだけれど、本日通りぬけ可となったばかりでは、それも望めそうにない。
 歩道まで届く声を張りあげると、腕の力がぬけそうだし……ミラノォ、オレはどうすればいいんだ? って言うかまず起きてくれ! 助けてミラノッ──。

「と、とにかく、話をしようぜヴィー。一体何が気に喰わない? オレは、何をすればいいんだ? はっきり言えよ前みたいに。言わなきゃオレにはわからないって」

「……何でわからないっ」

「なっ、何でって……」

「楯はわかろうとしてないだろ全然っ。昨日だって、……とうとうアタシから電話をかけたってのに、どして≪現在使われておりません≫なんだっ。どしてアタシに断りもなく番号変えたっ」

「……どしてって……」
 どしてオレが、ヴィーに断らなくちゃならないっ?

「どして今日教室に来なかった? どしてみんなみたいにアタシを見ない? どしてアタシにドキドキしないぃ?」

 えぇ~っ、ウッソだろ? どしてって……そんなの、当然もあったりまえじゃんかぁ!
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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