214 ________ ‐3rd part‐
文字数 1,722文字
いやダメダメッ。こういう時は、考えるより声を出せ、だっ。
以前とは違って、今のオレには、こうして意識できている限りは、やれるんだし!
「……た、たんまっ、たんまですってば」
「こいつも、こいつも、こいつも、こいつもっ、みんなみんな、み~んな、ウチの、みんなの分だっ。喰らえ喰らえっ、この臑齧 りのクソボンチめっ!」
わけがわからん? でもこの剣幕、滅茶苦茶でも絶え間がない攻撃には、両手でどうにか、顔面と頭の一部を庇う以外になす術がないぃ。
奇声と気勢でもって横から急襲され、オレは植木の隙間に尻餅をついちまっているから、逃げたくても逃げ出せない。激烈な連打をまるで躱せない。もはやオレはボッコボコ……。
「話がわかりませんし、話せばわかりますっ、とにかくストップ、暴力反対っ」
しかし、一向にオレをたたくのをやめてくれない。
いくら丸めた新聞紙だからって、いい加減にしてくれないと、また、手首から肘にかけてが腫れあがっちまう。今日はセンパイのテストがあるのにっ。
! ──し、新聞紙だぁ? それも丸めて棒にした……。
「どうだっ、まいったかまいったかっ! オトナをっ、社会をナメてると、こう言うことになるんだっ。みんな生きるために必死にやってんだ、思いつきのこづかい稼ぎがナンボのもんじゃあ! わかったか、わかったか、わかったかっ、このこのっ有財餓鬼 タレめが~っ」
……痛てぇ~。けれど漸く、たたくのをやめてくれた。
と、言うより、どうやら、たたきすぎで新聞紙の棒が途中で千切れてしまい、力を込めて振り下ろせなくなっただけみたい。
オレが薄目を開けた先に、その破片が転がっているのが見えるから。
怖ず怖ずと顔を上げて、ジンジン痺れきっている両腕の合間から、オレのスグ前で、息を荒げている人物の姿を下から窺っていく……。
履き込まれたアディダスのローカットSS、裾を何重にも折り返している、だぶだぶヨレヨレなカーキ色のツナギに、鉤裂きだらけ、ペンキで落書きだらけのGジャン。
そして、さらに上、その、肩で喘ぎ、額から一筋汗を垂らしている女の顔様は……なんて趣味なのか、フレームが流れ星の形をした、サングラスなんぞをかけていた。
右目が星で、それが引く尾っぽが左目。それぞれにピンク色のレンズが入っていて、オレを睨みつける見開いた目を、少しばかり緩和してくれているカンジ……。
頬がふっくらとした丸顔で、どことなく不二家のペコちゃん、いや、野球帽を後ろ被りしていて、髪もかなり短そうだからポコちゃんだな、それを髣髴とさせてくれる。
年齢も、オレと大して変わらなそう。
それにしては、オレを散散ガキ呼ばわりしていた。これで二十歳すぎだとしても、若く見えるのは、肌の質感云云よりも、化粧っ気が全くないせいだろう。
しっかし、誰なんだこの凄まじい女? オレの名前を喚いていたから、一方的に知られているみたいだけれど……。
「水埜クン、大丈夫なの? 救急車呼ばなくても平気そお?」
その、凶暴なポコちゃんの頭上を見上げれば、オレがとりつこうとしていた、ヴェランダの手摺りの上から、有勅水さんが身を乗り出していた。
一応、心配そうな表情にはなっているものの、オレにかけた声は、明らかにおもしろがっているよなぁ。
その隣にいる宝婁センパイに至っては、声にならないほどの大笑いで、悶絶していやがるのが見て取れた。
「お疲れ様」
……いつしか、トリノさんまでがスグ傍にいた。ほぼ地ベタで仰臥 してしまっているオレに、手を差し伸べてくれる。
そして、恐れていたとおり、もう一方の手には、丸めた新聞紙が握られていた。
「これって、やっぱり……テスト、だったの?」
トリノさんに手を引いてもらい、腰を起こしながらも聞かずにはいられない。
「えぇ残念ながら。ホント、あっと言う間。私の出る幕なんて全然なかった、まさに、電光石火の猛攻だったので」
「……ウッソ」
「イチャコラ‐ムズキュンと、安穏無事の天下泰平で生きてる者を襲うのって、物凄く容易いことなんだね。とても勉強になったわ」
「…………」
その、率直すぎるコメントはトリノさん、今のオレに、確とトドメを刺しちゃってるんですけれどぉ──。
以前とは違って、今のオレには、こうして意識できている限りは、やれるんだし!
「……た、たんまっ、たんまですってば」
「こいつも、こいつも、こいつも、こいつもっ、みんなみんな、み~んな、ウチの、みんなの分だっ。喰らえ喰らえっ、この
わけがわからん? でもこの剣幕、滅茶苦茶でも絶え間がない攻撃には、両手でどうにか、顔面と頭の一部を庇う以外になす術がないぃ。
奇声と気勢でもって横から急襲され、オレは植木の隙間に尻餅をついちまっているから、逃げたくても逃げ出せない。激烈な連打をまるで躱せない。もはやオレはボッコボコ……。
「話がわかりませんし、話せばわかりますっ、とにかくストップ、暴力反対っ」
しかし、一向にオレをたたくのをやめてくれない。
いくら丸めた新聞紙だからって、いい加減にしてくれないと、また、手首から肘にかけてが腫れあがっちまう。今日はセンパイのテストがあるのにっ。
! ──し、新聞紙だぁ? それも丸めて棒にした……。
「どうだっ、まいったかまいったかっ! オトナをっ、社会をナメてると、こう言うことになるんだっ。みんな生きるために必死にやってんだ、思いつきのこづかい稼ぎがナンボのもんじゃあ! わかったか、わかったか、わかったかっ、このこのっ
……痛てぇ~。けれど漸く、たたくのをやめてくれた。
と、言うより、どうやら、たたきすぎで新聞紙の棒が途中で千切れてしまい、力を込めて振り下ろせなくなっただけみたい。
オレが薄目を開けた先に、その破片が転がっているのが見えるから。
怖ず怖ずと顔を上げて、ジンジン痺れきっている両腕の合間から、オレのスグ前で、息を荒げている人物の姿を下から窺っていく……。
履き込まれたアディダスのローカットSS、裾を何重にも折り返している、だぶだぶヨレヨレなカーキ色のツナギに、鉤裂きだらけ、ペンキで落書きだらけのGジャン。
そして、さらに上、その、肩で喘ぎ、額から一筋汗を垂らしている女の顔様は……なんて趣味なのか、フレームが流れ星の形をした、サングラスなんぞをかけていた。
右目が星で、それが引く尾っぽが左目。それぞれにピンク色のレンズが入っていて、オレを睨みつける見開いた目を、少しばかり緩和してくれているカンジ……。
頬がふっくらとした丸顔で、どことなく不二家のペコちゃん、いや、野球帽を後ろ被りしていて、髪もかなり短そうだからポコちゃんだな、それを髣髴とさせてくれる。
年齢も、オレと大して変わらなそう。
それにしては、オレを散散ガキ呼ばわりしていた。これで二十歳すぎだとしても、若く見えるのは、肌の質感云云よりも、化粧っ気が全くないせいだろう。
しっかし、誰なんだこの凄まじい女? オレの名前を喚いていたから、一方的に知られているみたいだけれど……。
「水埜クン、大丈夫なの? 救急車呼ばなくても平気そお?」
その、凶暴なポコちゃんの頭上を見上げれば、オレがとりつこうとしていた、ヴェランダの手摺りの上から、有勅水さんが身を乗り出していた。
一応、心配そうな表情にはなっているものの、オレにかけた声は、明らかにおもしろがっているよなぁ。
その隣にいる宝婁センパイに至っては、声にならないほどの大笑いで、悶絶していやがるのが見て取れた。
「お疲れ様」
……いつしか、トリノさんまでがスグ傍にいた。ほぼ地ベタで
そして、恐れていたとおり、もう一方の手には、丸めた新聞紙が握られていた。
「これって、やっぱり……テスト、だったの?」
トリノさんに手を引いてもらい、腰を起こしながらも聞かずにはいられない。
「えぇ残念ながら。ホント、あっと言う間。私の出る幕なんて全然なかった、まさに、電光石火の猛攻だったので」
「……ウッソ」
「イチャコラ‐ムズキュンと、安穏無事の天下泰平で生きてる者を襲うのって、物凄く容易いことなんだね。とても勉強になったわ」
「…………」
その、率直すぎるコメントはトリノさん、今のオレに、確とトドメを刺しちゃってるんですけれどぉ──。