120 ________________________ ‐3rd part‐

文字数 1,065文字

 そんなオレだけでなく、ミラノさんの気持もチョイとも酌まず、ヴィーはあからさまにゴネだしてきやがる。

「ねぇミラン~、もうわかったし、ちゃんと行くからぁ。もう少しダラダラ歩かなぁい? 途中にだって、見せときたいトコあるしぃ」

「ダラダラは、明確な目的がある時にはムリムリなんだよ。タラタラ言わずに、ラッタッタッタ急ぐ急ぐ~」

「あぁそうだミラン、ノド渇いてるんじゃなぁい? 次の角を右に曲がるとさぁ、五〇種類以上もフラッペがあるお店があるんだけどぉ」

「そんな寄り道ダメダメだよね~、水埜楯っ?」

「だよね~っ。往生際が悪いんだよまったくヴィーはっ、オレたちはもう、完全にセイレネスモードなん──」

 と! ヴィーに言われて、無意識に視線を向けていた次の角の右側から、意表にも、ここにはあり得ない人物、葉植さんが出現した。
 確か、渋谷なんか嫌いだって、いつだったかきっぱり言い退けてくれてなかったか? 
 
「あ、葉植木春菊だよ水埜楯」

「うんそう、よく憶えてたね」

「エ~ッ。ヤダヤダ、無視しよ無視ぃ」

 葉植さんもオレたちに気づいたようで、これまた意表だが、オレにもわかるくらいに、毎度の無表情ながら驚いていた。
 その上葉植さん、らしくもなく、足を止めてまで、どうしようかとオタオタ遅疑する挙動までが窺える……。

「水埜楯、呼んでみてみて」

「うん」

「チョットォ、やめてよ。アタシって、あのコ不得意なんだからぁ」

 ヴィーの抵抗なんかこそ無視だ無視っ、「葉植さぁ~ん!」

 オレが()いている方の手を振って見せると、葉植さんもモジモジと、スタジャンの袖から掌を捲り出して小さく振った。
 今日、初めて袖を通したってカンジのマイティーダックスのスタジャンだ。
 手の振りが小さく映ったのは、ホワイトレザーの袖が長すぎて、出した掌がスグまた埋もれていってしまっただけなのかも。
 実に葉植さんらしいけれど、それほどブカブカのサイズで着ていて、逆に寒そう。

 それに、オレたちがあげたリュックではなく、山吹色のメッセンジャーバッグを肩から斜め掛けにしていて、まるで着馴らせていないことに加えたブカブカさからも、スタジャンの見映えはやっぱり台ナシだぁ……。
 また、そのバッグの歪な膨れ具合は、毎度同様、防災用品がしっかりとつめ込まれているみたいだし。

 まぁ葉植さん定番の服装である、たっぷり折り返しても尚、引きずっているデニム・オールンワンに黄色のプロケッズとのコーデには、カルチャーギャップを愉しんでいる、どこぞのリトル東京からの家出娘みたいで、妙に似合ってはいるけれど。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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