281 高説:親友はペット同様に愛せばヨイ ‐1st part‐

文字数 1,225文字

 ……勝庫織莉奈を、その罠へとハメるまでだって、葉植さんの完全単独で、とは考え難いんだよねぇ。

 もう一人、そう、殺老女子をエサにして動かすと言うか、勝手に動くのを、葉植さんが黒子となって調整する方が、謀略や仕掛けも、綻びが出たその都度修正が加えられて、首尾良く、完全犯罪のステージをつくりあげていける気がする。

 葉植さんならできちゃいそうな、完璧な変装をしたんだとしてもだ。直接会って話したら、いくら勝庫織莉奈が凄まじい自惚れ屋だろうと、さすがに信用させるなんて、ムリだと思うんだよなぁ。
 されるのは、犯罪の教唆なんだから、殊更に。

 だから葉植さん、決して表立つようなことはせず、殺老女子がターゲットを物色したり、その殺害を決行する段にも、一緒になって直接手を貸したりもしない。
 実際に勝庫織莉奈へ姿を晒したのも、張り込んでいた根上のクルマから、ドローンと音で誘き出し終えた時が、初めてだったと思うんだ。

 それに葉植さん、勝庫織莉奈が≪前日の

、ボクだってことに、まるで感づきもしなかった≫とは言ったけれど、≪

、ボクだってことに、まるで感づきもしなかった≫とは、言わなかったはずだし。

 首謀者ってことなら、偽装行為や火つけを直接行わなくても、現場に姿を現さなくてもいいわけで、オレに嘘を吐いていないことにもなるもんねぇ。
 理屈的にはと言うより、方便でも許し難い屁理屈だけれど。

 一人殺すも、何十人殺すも、人殺しと言う誹りは同じかぁ……。

 葉植さん、自分がさらに罪を被るようなレトリックを用いてでも、殺老女子の存在を、話の中心から遠ざけようとしていたこと自体、オレの、この直感的な後考と言うか、オレなりの総括を、裏づけてくれているんじゃないだろか?

 なのでもう、この件に関して、葉植さんは一切オレにしゃべりはしない。
 本当にオレのためなのか、本当は純然たる片想いとまで白状した殺老女子のためかは、疑えば、逆にド野暮になっちゃうしねぇ。

 そのド野暮になっちゃう微妙な加減が、殺老女子と葉植さん、葉植さんとオレという距離感だけでなく、オレと殺老女子の距離までをも、あまり遠くにはカンジさせないんだよなぁ。

 そのコは、緑内が深追いするくらいキレイなコ。それに、確かミラノも言っていた≪迦陵頻伽で唄っては人を惹きつけ誘い込む、そう、まるでセイレーンみたいだよ≫ってね……。

 きっと田宮謡の演歌でさえも、この世のモノとも思えない美しい声で唄うだろうな。その声に負けない、ベラボウに高価なギターの弾き語りでもって──。

「ねー楯クン。今って、何を考えてたー?」

「へっ。……いやぁ別に何も、毎度のように無意味にボォ~ッとしてただけですよ。葉植さんも御存知のとおり、オレはお人好しのリフラフですから、ボォ~ッとしてるのがディフォルトなんです」
 
 とまぁ穏便に、オレは三味線を弾いておく。ボォ~ッと考えていたのは事実だし。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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