209 本館前にて…… ‐1st part‐
文字数 1,980文字
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ジェレさんの部屋は、マンションの一三階ときた。
階段しか使えないミラノの手を引いていてはモォ~、面倒なんで、途中から負ぶって送り届けた。それもまぁ、結構なトレーニングになるし。
そのあとは、ジェレさんに勧められた、お茶の用意が整う前に失礼をして、オレはとりもなおさず大学へと走る。
部屋に着いた早早、ミラノがスイッチを入れたTVに、今度はCFではなく番組のワンコーナー、渋谷へロケに出た生中継カメラが捉えた映像で、なんと、ヴィーがデカデカと登場しやがったもんだから──。
渋谷と言えばのランドマーク的な109、その円筒形をした部分の壁面にデカデカとだ! ヴィーが、お得意の仁王立ちで見下ろす垂れ幕広告が、この日本を征服したかのように下がっていやがったっ。
オレも、それにはさすがに唖然、愕然、茫然と、開いた口も池のコイ状態。
それをバカウケたミラノが、「やっぱり今、ヴィーは大学に来てるのかもかも。楯のそのビックラこんを、伝えに行く行くぅ」だなんてことを言い出すもんだから、とにかく急いでみるしかない。
──三号館とイチョウの大木の間をぬけて、ミラノが説き及んだ「たぶんヴィーは、大学の偉い人たちに呼ばれてるんだよ」に、該当しそうな本館へ向かう。
きっとヴィーの奴、CFや広告のキワエロな姿が、学長や理事たちから問題視されて、訓告でも受けているに違いない。
それでも、ケロリとしているようならば、ドギツい冷やかしの一つも言ってやらないとっ。
がしかし、漠然とミラノのテレパシー情報で来てみたところで、本館前に、ヴィーが都合好く、立ち待ちしてくれているはずもなかった。
最上階の学長室か、その下の応接室にでも上がっていることだろうけれど、理由もなく、そこまで近づくことは叶わない。
かと言って、ヴィーが解放されるまで、ここで待つのもアホクサいし。ザマァでも、それ以上の嫌味をカンジているわけではいないんだし。こっちに戻って来たのなら、いずれウチにも顔を出すだろうし……。
そんなことを思いつつ、総合体育館へ踵 を返していた矢先、ヴェステビュールのこちら側の扉から、まさかの草豪が現れた。
つい、息を呑みながら身がまえてしまったのは、毎度の剣呑とした目つきにだけでなく、草豪の服装が、さっき別れたミラノの物とほとんど一致していたから。
「何よ水埜? 一生涯に一度のおめでたい日に、思いっきり遅刻して来たってわけじゃなかったの?」
……まさか、ミラノとのことを、こいつに見られていたってのか? なら草豪一人ってことはないよなっ、ウソだろおい!
「何がだよっ、遅刻なんか関係あるか、いつ走ろうがオレの勝手だろ」
「はぁ? ……はは~ん、褒誉 会に呼ばれたんじゃないんだ? な~んだ残念でしたぁ。なら何で本館に? 未練がましいわよ」
「褒誉会って、何のだよ? 草豪こそ、また随分とヒマそうだなっ」
「ったく。そんなわけないでしょ、もう忘れたっての? 水埜と違って、私たちは忙しいんだから。ヴェステで待ち合わせをしてるだけよ、そこを、水埜が血相変えて通り過ぎたんでしょうが」
「……別に、血相なんか変えてないっての」
「まぁ、水埜も選ばれなかったんだから、知る由もないわよねぇ」
「……って、何がだよ?」
「今年度から、理事会の役員が大きく入れ替わって、そのほとんどが、文科学部の出身者なのよ。それで、今どきの文科の特待生が、どんなカンジか気になったんじゃない?」
「……んん?」
「今回選ばれた者を呼びつけて、特待生の恩典とは別に、記念品を贈呈して、懇談と激励をしようって趣向みたいよ。けど水埜には、やっぱり縁遠い席だったわよねぇ」
「今回って、……特待生もう決まったのか?」
「水埜の家にも、通知が届いたでしょ? ブルーレターで」
そんなの届いてない、知らないっ──。
オレは、ブンブンと首をふるしかないけれど……唯一、自信があるようなことを言っていた草豪が、選ばれずに今ここにいて、ヴィーの奴が今、本館の六階にいるってことは。
「じゃぁ何? 草豪、おまえダメだったってのかっ!」
「チョット、大声出さないでよこんなトコでっ」
「草豪テメェ、ヴィーなんかに負けたのかよっ。このクソアホが! 余裕ブッカマしで何が国際公務員だ、五〇年後なんか知るかよ今だろ今っ」
「クソアホって……」
「セイレネスなんか着て色気づきやがってるから、そんな無様なことになったんだぞっ。剣橋までがダメでも、おまえならブッチギリで特待生になれるって信じてたのにっ」
「……え、えっと……」
「ど~すんだ、あぁ? これまでいろいろ柄にもなくやってきたオレに死ねってか? 有勅水さんやミラノやド・鵠海氏に……緑内にもだっ、なんて詫びればいいんだよオレはぁ!」
なんか、自分でもわけがわからない。目の前がクランクランしてきた──。
ジェレさんの部屋は、マンションの一三階ときた。
階段しか使えないミラノの手を引いていてはモォ~、面倒なんで、途中から負ぶって送り届けた。それもまぁ、結構なトレーニングになるし。
そのあとは、ジェレさんに勧められた、お茶の用意が整う前に失礼をして、オレはとりもなおさず大学へと走る。
部屋に着いた早早、ミラノがスイッチを入れたTVに、今度はCFではなく番組のワンコーナー、渋谷へロケに出た生中継カメラが捉えた映像で、なんと、ヴィーがデカデカと登場しやがったもんだから──。
渋谷と言えばのランドマーク的な109、その円筒形をした部分の壁面にデカデカとだ! ヴィーが、お得意の仁王立ちで見下ろす垂れ幕広告が、この日本を征服したかのように下がっていやがったっ。
オレも、それにはさすがに唖然、愕然、茫然と、開いた口も池のコイ状態。
それをバカウケたミラノが、「やっぱり今、ヴィーは大学に来てるのかもかも。楯のそのビックラこんを、伝えに行く行くぅ」だなんてことを言い出すもんだから、とにかく急いでみるしかない。
──三号館とイチョウの大木の間をぬけて、ミラノが説き及んだ「たぶんヴィーは、大学の偉い人たちに呼ばれてるんだよ」に、該当しそうな本館へ向かう。
きっとヴィーの奴、CFや広告のキワエロな姿が、学長や理事たちから問題視されて、訓告でも受けているに違いない。
それでも、ケロリとしているようならば、ドギツい冷やかしの一つも言ってやらないとっ。
がしかし、漠然とミラノのテレパシー情報で来てみたところで、本館前に、ヴィーが都合好く、立ち待ちしてくれているはずもなかった。
最上階の学長室か、その下の応接室にでも上がっていることだろうけれど、理由もなく、そこまで近づくことは叶わない。
かと言って、ヴィーが解放されるまで、ここで待つのもアホクサいし。ザマァでも、それ以上の嫌味をカンジているわけではいないんだし。こっちに戻って来たのなら、いずれウチにも顔を出すだろうし……。
そんなことを思いつつ、総合体育館へ
つい、息を呑みながら身がまえてしまったのは、毎度の剣呑とした目つきにだけでなく、草豪の服装が、さっき別れたミラノの物とほとんど一致していたから。
「何よ水埜? 一生涯に一度のおめでたい日に、思いっきり遅刻して来たってわけじゃなかったの?」
……まさか、ミラノとのことを、こいつに見られていたってのか? なら草豪一人ってことはないよなっ、ウソだろおい!
「何がだよっ、遅刻なんか関係あるか、いつ走ろうがオレの勝手だろ」
「はぁ? ……はは~ん、
「褒誉会って、何のだよ? 草豪こそ、また随分とヒマそうだなっ」
「ったく。そんなわけないでしょ、もう忘れたっての? 水埜と違って、私たちは忙しいんだから。ヴェステで待ち合わせをしてるだけよ、そこを、水埜が血相変えて通り過ぎたんでしょうが」
「……別に、血相なんか変えてないっての」
「まぁ、水埜も選ばれなかったんだから、知る由もないわよねぇ」
「……って、何がだよ?」
「今年度から、理事会の役員が大きく入れ替わって、そのほとんどが、文科学部の出身者なのよ。それで、今どきの文科の特待生が、どんなカンジか気になったんじゃない?」
「……んん?」
「今回選ばれた者を呼びつけて、特待生の恩典とは別に、記念品を贈呈して、懇談と激励をしようって趣向みたいよ。けど水埜には、やっぱり縁遠い席だったわよねぇ」
「今回って、……特待生もう決まったのか?」
「水埜の家にも、通知が届いたでしょ? ブルーレターで」
そんなの届いてない、知らないっ──。
オレは、ブンブンと首をふるしかないけれど……唯一、自信があるようなことを言っていた草豪が、選ばれずに今ここにいて、ヴィーの奴が今、本館の六階にいるってことは。
「じゃぁ何? 草豪、おまえダメだったってのかっ!」
「チョット、大声出さないでよこんなトコでっ」
「草豪テメェ、ヴィーなんかに負けたのかよっ。このクソアホが! 余裕ブッカマしで何が国際公務員だ、五〇年後なんか知るかよ今だろ今っ」
「クソアホって……」
「セイレネスなんか着て色気づきやがってるから、そんな無様なことになったんだぞっ。剣橋までがダメでも、おまえならブッチギリで特待生になれるって信じてたのにっ」
「……え、えっと……」
「ど~すんだ、あぁ? これまでいろいろ柄にもなくやってきたオレに死ねってか? 有勅水さんやミラノやド・鵠海氏に……緑内にもだっ、なんて詫びればいいんだよオレはぁ!」
なんか、自分でもわけがわからない。目の前がクランクランしてきた──。