242 ノドの渇きはスグ癒さないと悪循環に ‐1st part‐

文字数 1,392文字

 そんなオレの顔色を気にしてくれたのか、葉植さんの表情にも、チョット動きがあったように見えた。そのチョットも、

だったけれど。

「だって相手はテレパスだよ、大勢の出入りがあるLDだけなら問題ないと思って。あの朝、楯クンと別れたあと、楯クンの家へは向かわないフリをして、実は珂児也クンが起き出す前に仕掛けさせてもらったんだ。それも今日からやめる、必要がなくなったし」

「そんな……」やっぱり、ダメだ全然──。

 オレは、葉植さんにも勝てないきっと。
 体力任せの実力行使に出てみたとしても、やられるのはオレだ。しかも命を、迷うことなく狙ってこられるんだしっ。

「わかってるだろうけど、もう取り引きはナシにできないんだよ。葉植木春菊は今から誰も殺しちゃダメ、楯を殺そうなんてしたら、お祖父ちゃん譲りの脳ミソを、吹き飛ばされて死ぬことになるなる。トリノのピアスは一発必殺、最初から葉植木春菊を狙ってるんだからぁ」

「チェ~ッ。道理で片っぽだけ、随分と大きなダイヤだと思ったんだ。殺し文句なんだから、せめてきちんと一発必中か、一撃必殺って言ってもらいたいよね。観念するにもしきれないじゃないかー」

 ──って。いや、でも葉植さん、けれど道理でとか、観念とか、そんないきなり受け容れられるか? トリノさんにはPK能力だなんてこと……。

「観念なんかしなくたって、ワタシとの約束を破らなければいいだけなんだよ。でも楯を納得させるのは、葉植木春菊の自業自得だよ。ワタシは、楯のお願いでも教えなかったのにぃ」

「わかったよモ~、ボクの悪運も、楯クンが寄せ集める端運には敵わないや。大体どうして、警戒のために設置していたセンサーが反応しなかったんだろ? ここへ来るためにバリケードを退かせば、この楯クンのPCが知らせてくれるはずなのに」

「…………」そんなこと言われても、知らないってオレは。

 オレのデスクへ真向かうと、葉植さんはキーの一つを弾いた。それがまた、いやに慣れた手つきで。

 するとディスプレイには、オレのPCでありながらオレの全く知らない画面表示が現れて、葉植さんは何やら素速くキーボードをたたきつつ、オレへも問いかけてくる。

「それにここ、高い囲いがとり払われてから防犯の意味もあって、夜間は外の安全灯だけじゃなく、照明が点くようにされること、楯クンもちゃんと有勅水さんから聞かされていたよね? だから、むしろ盲点になると考えたのに」

 どうやら、オレの来た下側と上の方の階段口には、センサーだけでなく、監視カメラまでが仕掛けられていたらしい。
 葉植さんは、両方の映像を画面分割して呼び出すと、交互に覗き込んでチェックを始めた。

「楯は、葉植木春菊よりずっと脚が長いから、ヒョイヒョイって跨いで来たに決まってるじゃん。ここが夜に明るくても驚かないようにって、唏がした注意だって、返事は良くても聞いてなんかいないない」

「まいったなー。楯クンは、そうゆうトコも神経質で几帳面だと買い被ってた。ESPと粗放さの前には、練りに練った計画も見事までにカタナシ。それなら盗聴されようが、何の不利益もなかったじゃないかぁ」

 ディスプレイから顔を離して、体ごとオレへ向きなおった葉植さんは、ぎこちなく頬を引き攣らせて自嘲しているかのようだった。

 その、左半分を引き攣らせた笑顔は、まさしくオレが知るいつもの葉植さんでしかない。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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