101 ______________ ‐2nd part‐

文字数 1,203文字

 いや、真に惜しむらくは、ムッシューが有勅水さんにも黙って帰国してしまっていたこと。
 今宵は、ムッシューのうちあげ会のつもりでもあったのに。

 ちゃんと、別れもお礼も言えなかったから、どうにも水クサくって詮なくなる。根上も緑内も、ま~だ顔を見せやがらないし。

 一九時前をピークに、僊河姉妹を一目見ようと、初顔までが続続と押し寄せて、狭くもないと思っていたLDと和室を連結させた会場が、今や人で溢れんばかりになっていた。
 特に上座の和室は、僊河姉妹へ挨拶をしに来るたびに花束が積もって、既にとんでもないあり様。
 普段は花より団子の人ばかりだってのに、みんながそろいもそろって大きな花束を抱えて来るのには、

、そんなアンチノミーへの一つの賢答なんだろうか? 
 
 だとすると、花束ってのは、庶民が気取(きど)るには、一番無難なフォーマルスタイルと言えるのかも。
 その花束の置き場に、一畳以上もとられてしまい、上座からしてイモ洗い状態。
 みんな、ミラノさんもトリノさんも想像以上に日本語が通じる上、キャラ的にもかなり愉しいから、挨拶だけでは済まずに話し込んでしまう。
 
 里衣さんと毛絲さんも、増える鍋とそのコントロールに大童(おおわらわ)
 申しわけなくも思うけれど、二人はそれが嬉しいときているし、ヘタに手伝おうとすると、逆に地獄を見る。
 しからば、せめて飲み物の冷蔵庫への補充と、空き瓶の片づけぐらいはしとこうか。

 ──そんなお体裁をしたばっかりに、始めはオレも、ミラノさんの隣席という扱いだったのに、一度席を立ったが最後、どんどん脇へと追いやられ、いつしか下座も下、冷蔵庫のスグ横まで寄せられたダイニングテーブルにしか、居場所がなかった。
 
 そこには、先客として葉植さん。見た目にも口重な江陣原と、顔を茹でダコみたいに火照(ほて)らせた川溜が、しんねりむっつりと腰かけていた。
 どうやら、ほかの明王どもは、有勅水さんたちとの会話に大きな花が咲いてるみたい。

 ホロ酔いまでにも達していない、ホロホロ酔い加減も一気に醒めるけれど、川溜だけはいつもと様子が違うので、ガチに気分が悪いのかもしれない。

「大丈夫か川溜? 冷たい水かアイスクリームでも出そうか? 調子が良くないんなら遠慮しないで言えよな。ここの熱気や酒のニオイがツラいなら、二階で休んだってかまわないんだから」

 禁煙だけは徹底されているので、空気の悪さからではないと思う。エアコンのフィルターも大掃除でとり替えさせられたし。

「……チョット、人アタリしただけ。もう少ししたら失礼するから、盛りあがっているところに、水を差す真似はできないでしょう?」

 川溜は、そう江陣原へと同意を求める視線を送る。

 江陣原も頷きかけたが、どうにか眼鏡の掛け具合をなおす動作へともっていき、相も変わらずきっちりとごまかしやがった。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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