104 __________________ ‐2nd part‐

文字数 1,478文字

「…………」

 江陣原のノーリアクションは、とっくの昔に匙を投げ捨てちまっているけれど、こんな話に川溜までが一言もないのには不安になる。
 しっかりついて来てはいるけれど、やはりタクシーに乗せた方がいいみたい。
 
 そうと決まれば、バス通りまでのショートカットもかねて、何か上着をとりにプレハブハウスへ寄っておくしかない。
 寒さでイラついた態度を見せたら、地域的にヤバいガキだと思われて、タクシーにも停まってもらえないだろうし、確実に今回だけのためになる配車アプリなんか面倒だし。

「マジで大丈夫かよ川溜? ツラかったら正直に言えよな、一人くらいならオンブできるし、今更オレなんかに遠慮したって、無意味だってわかってるだろ?」

「……大丈夫よ。まだ少しボォ~ッとしてるだけ」

「それが遠慮してるって言うんだよ。タクシー拾うからさ、江陣原は、川溜んチ経由で帰ってくれ。バス通りまで、チョット建設現場の中を近道するけれど心配ないから。オレの今のバイト先で(ねぐら)でもあるんで、全然問題ないんだ。いい加減寒くってさ、上着をとりに寄らせてくれよ」

 オレは、街灯の光が充分届く位置で立ち止まり、財布に入れてあるセキュリティカードをとり出して二人に提示、簡単に事情を説明した。
 ついでに宝婁センパイからと、タクシー代も江陣原に渡しておく。

 ……V&Mと宝婁の名は、ここでも効果覿面のようで、説明後も二人は黙ってオレについて来てくれた。

 角を曲がると、二軒先の自販機の前に葉植さんがいた、飲み物を買っていたらしい。
 オレに気づくと、急かすように手招きする。

 ──「どうしたんです? てっきり、一人で帰っちゃったんだとばかり思ってましたよ」

「青汁ラテが飲みたかったのに、ないのー。楯クン、暴暴茶でも飲むー?」

「いえ。トイレに行ったばかりなんで結構です、って言うかないでしょ、そんなの自販機に最初から?」

「だねー。苦い顔してちゃーダメだよ楯クン、いくら相手にされてなくても~」

 ったく。……でもまぁ、こうして出交してしまったからには、葉植さんも無事家まで送り届けなくてはなるまい。
 葉植さんにも、気分や体調を伺い伺い、川溜たちを先に帰す了解を取りつける。

 一人で帰れるから送る必要はないと言うものの、葉植さんも、ムッシューが残して行った仕事の成果が見られるチャンス、という理由から建設現場へはついて来た。

「そこを曲がると搬入路なんだけれど、ドアまでの七、八メートルだけ暗いから、目を慣らしながら、足元に気をつけるようにな。道幅も徐徐に狭くなってるから、塀にぶつかったりしないでくれよ。中へ入ちゃえば、通路を示すカンジにぽつぽつフットライトが灯ってて、歩き易くはなってるから一応」

 そう三人に注意しておきながら、通用口のドアを開けておこうと、一足先に闇路を急いだオレが、思いっきり蹴躓(けつまづ)いてコケちまった──。

「どしたの楯クンー?」

 ……あまり放置せず声をかけてくれたことには感謝だけれど、心配をスルーして、既に呆れてるよなぁ葉植さん。

「何だよもう。危ねぇなぁ」
 と無様に、言いわけにもならない悪態をとり敢えず一つ吐いて、取り繕い。
 それからスグ様、後ろのシルエット三人を窺えば……また三人ともが、微動だにせずのノーリアクションも同然ときているからツラい。

 地面に突いた掌をはたきながら立ち上がり、赤っ恥をかかせてくれた障害物の正体を確認しようと、暗くてあまり判然としない中で目を向ける──。

 なぜか、オレの足元には、投げ出された二本の脚らしきモノがあった。

 ……ってこれ、誰かが倒れているのかっ!
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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