193 _________ ‐3rd part‐

文字数 1,276文字

 勝庫織莉奈は、その全容を目の当たりにして、下りの始発電車で家に帰り着くと、スグにはサイトへ書き込むことはしなかった。
 夜まで悩み考えた末に、一緒に、今度こそ、決定的瞬間を押さえに行く仲間を募る書き込みをする。

 ミラノさんが≪見といて見といて≫と言い残して出て行ったのも、間違いなく、そのあとスグにやって来る、根上が関係していたからだったんだ!

 大勢の

たちが

って、あの時に気づけるキーワードはそろっていたのに、ありがちな経営破綻やら、焼身自殺の大心中やらで、オレは完全に気を逸らされてしまっていた……。

 休憩しにやって来た根上は、上婾さんと筌松と雑談しながらも、ゼミの奉仕活動が済んだあとの、黔磯行きのことへも思いを巡らせていたことだろう。

 順番的には、黔磯の前になる田宮謡のリサイタルが行われた宇津宮で、あんな老人ばかりが亡くなる大事件が起きた。
 それとタイミングを同じくして、勝庫織莉奈がDG連中を招呼しているわけだから、何か関連があるんじゃないかと考えるのがフツウだ。
 オレと違って、根上は朝のニュース番組も観るんだろうから、オレが観たワイドショー以前に事件を知っていたに違いないんだし。

 根上以外のGDメンバーが、招呼に応じて実際に現地まで行く決断をするかは、事故死ではなく、放火事件による焼死という、大きなズレが左右したんだろうけれど。

 そうした根上の意識を、ミラノさんはキャッチした。
 根上をよく知る、オレという中継アンテナが傍にいたし、TVでまさにそのニュースが流れていた。
 もうそれだけで充分、ミラノさんが、根上の意識を感知するための誘導物の役目を果たしそうだ。

 ……ミラノさん、今これ伝わってる?

 あの時ホントは、根上の意識の深層までを読み取るために、いろいろと、不自然にならないように集中したくて、ラウンジから一人で離れたんでしょ?

 オレのこの、草豪から話を聞いての想到が、もしも事の真相から大ハズレしていなかったなら、また電話してくれないかなぁミラノさん? お願い……。

 ──そう願いつつも走り続けて、ミラノさんからの連絡をもうすっかり諦めていた、ちょうど東京タワーの真下を通過しようとしていた時に、スマホが三度目の『危険な女神』を奏で始めた。

 もう、かなり息があがっているのも忘れてスマホに出るものの、もしもしすら、まともに言えやしない。

 「プルォント? 聞いててくれたら、それでいいんだよ水埜楯。ムリして話さなくても、私にはバッチリこんわかっちゃうんだからぁ」

 お言葉に甘えることにして、首に巻いていたタオルをはずし、顔の汗を拭き拭き、大きく深呼吸もしながら≪ラジャー!≫と念じて返答にする。

「とり敢えず、よ~くできましたぁ。水埜楯が走りながら考えたことは、中途半端に大当たりなんだけど。それでそれで? そこまでわかっちゃった正道派でも横道派でもない、中途半端な水埜楯は、一体これからどうどうするするぅ?」

 ……言葉にする必要がないってのに。

 オレは、その、ミラノさんの問いかけにも、まともに答えることができなかった。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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