298 ___________ ‐3rd part‐

文字数 1,243文字

 事務局へは嘘を吐きとおした上で平に平に謝り倒そう。体調が悪かったのも、それから食欲をあまりカンジないのも事実なんだから。

 事務局は一応社会の一端、事務局員も世人(せじん)とくれば、世の中こういうことは事実なんてどうでもいい、どちらを信じたいかで正否が決まると確信してるし。
 それには理屈や正論ではなく、滑稽なまでの人間味だ。優秀さが鼻につく草豪より、ダメダメでも、愛敬者をひたすら演じるオレに勝機アリ。形勢逆転を図るってやるっ。
 
 どちらが信用に足る人物かという価値判断を、こいつになら、騙されても仕方がねぇなぁって低次元へと、打っちゃりカマしてくれようぞ!

 ──事務局のカウンターでオレは、ほかに学生がいなかったのをいいことに、もういきなりの低姿勢。
 ペコペコ頭を下げまくりぃの、へいこら詫び言を入れまくりぃので、事務局内にいるほとんどの失笑を誘うことに成功。

 でも、オレが出した学生証からPCで本人確認をしてくれていた女性職員だけは、クスッともせず冷静に、ディスプレイへと眼を凝らしているのが気にかかる。

「ん~、今年二年の水埜楯さんっと──チョット待ってね」

 ポピーレッドの唇にツーポイント眼鏡がエレガントな職員のおネエさんは、席を立つと、オレに背を向けて声を張るから身が竦む。

「あの局長っ、文科学部二年の水埜楯さんって何かありますぅ? 特記欄にフラグが立って、ブリンクしてるんですけどぉ」

 うぉ~……なんか、かなりヤバげ。
 何だ? もしかして既に草豪がチクったあとか? それとも、またもや祖父ちゃんに、学費の振り込みを忘れらているとか?
 でもまぁ、今なら手持のカネでスグに振り込みに行ける。変に尾を引く悪印象は、もたれずに済むはずだ……。

 あれこれと、針の(むしり)に正座する気分で想像を巡らせているところへ、おネエさんは事務局長を引き連れて戻って来た。
 見る限り、数年で転属がありそうな四〇代でも定年を迎えそうな歳でもなく、長ければあと一〇年はここで勤務しそう……。

 とにかく、ガンバりすぎて嫌われない程度にガンバって、オレを、呆れても憎みきれないキャラへと、探り探りもっていかなくては。

「どうもすみません。お忙しいところ事務局長さんにまでお手数をかけてしまって。頭が上手くまわらなくてお詫びの言葉もありません。ホント、なんか先週から、体調が思わしくありませんで。かと言って、どうにか起き上がれるようになったのに、休んでしまうのも気がヒけまして。ホント自分でも情けない次第なのですけれど……」

「それはいけないね。休み中にガンバるのは悪いことじゃないが、ちゃんと休んで体調を整える期間でもあるんだから」

「はい。……ですよねぇ、ホント申しわけありま──ゴホゴホ……」

「けどまぁ、そんなことも言ってられないのかな? はいこれ、君、先週の褒誉会も欠席しただろう? これはその時に贈られたお祝いだよ。私から、こんな場所で渡されたんでは、何のありがたみもないだろうがね」

「へっ? ……それを、オレにですか」
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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