301 ______ ‐3rd part‐
文字数 1,202文字
けれど、そのドアが独りでに開いたかと思ったら、驚いたことに、中からなんとジェレさんが出て来てオレたちを迎えてくれた。
「ようこそいらしてくださいました。そちらは草豪眞弓さんでしたね、お二人は同級生だったとか」
「へ……何でジェレさんが草豪を知ってんだ?」
「そりゃ私たち、今回の件でお会いしているもの。水埜にあげたネクタイを買った時にもお世話になったし」
「でぇー! あれ、剣橋じゃなくて草豪が選んだのかよぉ。もう、ウチの方位除けにして、締めるのは絶対にやめとかなくちゃなっ」
「あんたねぇ……」
「さぁさ、店先ではなんですから、どうぞお入りになって」
「あ、はい。あの開店おめでとう御座います。ジェレさんが今日こっちにいるとは知りませんでした。ミラノはホント、オレに何一つ教えずに帰っちゃったんで。すみません、お祝いの差し入れとかは、あとで持って来ますね」
「お気づかいは要りませんよ。楯さんに何も教えなかったのも、お嬢さんたちお得意のサプライズなんですから。その表情だと、まんまと驚いてしまいましたね? あとでしっかり報告させていただかないと」
「えぇ~? ジェレさんまでグルなんですか。勘弁してくださいよもぉ。そりゃ血相だって変りますって、日本限定のセイレネスだなんてこと、今さっき不意も意表に、この底意地の悪い草豪に聞かされたばっかりなんですから」
「いつまでも調子づいてると、ガチに蹴っ飛ばすわよいい加減っ」
「ジェレさん、今日はちゃんと客として来たんで助けてください。草豪に思いっきり馬蹴りされたら、オレ死んじゃいますから」
「こいつったら、よーし、お望みどおり思いっきり蹴り飛ばしてやろうじゃないのよっ」
「まぁまぁお二人とも、ここでケンカは困ります。早速店内を案内させていただきますから、どうぞ仲好くしてくださいね」
──このアルゥリング‐ヴォイスの開店時間は、僊河青蓮展よりも三〇分遅かったので、時間指定の完全入れ替え制で二階の展示を見ている客は、まだここには気づいておらず、ようやくチラホラと客の入りが始まったという雰囲気だった。
よって先客も、こここそが僊河青蓮展の会場なんじゃないかと思えるほど、グラマライズされた空間が広がる店内には、オレたち以外に四人ばかり。
それも、ここがどんなショップなのか、まるでわかっていなさそうな若奥サマたちと、明らかに仕事合間のOL風が個別で二人。貸しきり状態も同然だっ。
一瞬メンズは置いていないのかと焦ったけれど、アンセクシャルというセイレネスの原則はきちんと踏襲されているらしく、レディースが品別けの大部分を占めてしまうのは、季節柄のことで致し方ないってだけみたい。
思わず歓喜の叫びをあげたくなるようなスプリーム空間! モォ~、死んじゃったっていいくらい、空前絶後の生きててよかった幸福感っ。
だって、今のオレには、とにかく何かを好きに選んで買えるんだから──。
「ようこそいらしてくださいました。そちらは草豪眞弓さんでしたね、お二人は同級生だったとか」
「へ……何でジェレさんが草豪を知ってんだ?」
「そりゃ私たち、今回の件でお会いしているもの。水埜にあげたネクタイを買った時にもお世話になったし」
「でぇー! あれ、剣橋じゃなくて草豪が選んだのかよぉ。もう、ウチの方位除けにして、締めるのは絶対にやめとかなくちゃなっ」
「あんたねぇ……」
「さぁさ、店先ではなんですから、どうぞお入りになって」
「あ、はい。あの開店おめでとう御座います。ジェレさんが今日こっちにいるとは知りませんでした。ミラノはホント、オレに何一つ教えずに帰っちゃったんで。すみません、お祝いの差し入れとかは、あとで持って来ますね」
「お気づかいは要りませんよ。楯さんに何も教えなかったのも、お嬢さんたちお得意のサプライズなんですから。その表情だと、まんまと驚いてしまいましたね? あとでしっかり報告させていただかないと」
「えぇ~? ジェレさんまでグルなんですか。勘弁してくださいよもぉ。そりゃ血相だって変りますって、日本限定のセイレネスだなんてこと、今さっき不意も意表に、この底意地の悪い草豪に聞かされたばっかりなんですから」
「いつまでも調子づいてると、ガチに蹴っ飛ばすわよいい加減っ」
「ジェレさん、今日はちゃんと客として来たんで助けてください。草豪に思いっきり馬蹴りされたら、オレ死んじゃいますから」
「こいつったら、よーし、お望みどおり思いっきり蹴り飛ばしてやろうじゃないのよっ」
「まぁまぁお二人とも、ここでケンカは困ります。早速店内を案内させていただきますから、どうぞ仲好くしてくださいね」
──このアルゥリング‐ヴォイスの開店時間は、僊河青蓮展よりも三〇分遅かったので、時間指定の完全入れ替え制で二階の展示を見ている客は、まだここには気づいておらず、ようやくチラホラと客の入りが始まったという雰囲気だった。
よって先客も、こここそが僊河青蓮展の会場なんじゃないかと思えるほど、グラマライズされた空間が広がる店内には、オレたち以外に四人ばかり。
それも、ここがどんなショップなのか、まるでわかっていなさそうな若奥サマたちと、明らかに仕事合間のOL風が個別で二人。貸しきり状態も同然だっ。
一瞬メンズは置いていないのかと焦ったけれど、アンセクシャルというセイレネスの原則はきちんと踏襲されているらしく、レディースが品別けの大部分を占めてしまうのは、季節柄のことで致し方ないってだけみたい。
思わず歓喜の叫びをあげたくなるようなスプリーム空間! モォ~、死んじゃったっていいくらい、空前絶後の生きててよかった幸福感っ。
だって、今のオレには、とにかく何かを好きに選んで買えるんだから──。