134 _______________ ‐2nd part‐

文字数 1,515文字

 しかも、テントウムシを筆頭に、どれもが結構な値段だった。
 ……オレには買えない。
 オレの名前が、これらを製作したクラフツスタジオ名と一緒に、アンシャル体のローマ字で洒落たカンジに表示されているっていうのに──。

 そのリアリティーが、オレを現実との乖離から一部分だけ送還してくれた。
 百葉箱に噛りついていたオレを、反対側でクスクス笑っているJK三人組にも気がついて、忸怩(じくじ)を覚えられるまでに。

 ……セイレネスのショップから逃げ出したヴィーが、オレと同じように、チラシを差し出された指のテントウムシからこれらに気づいて、ここへ寄ったとすれば、どうだろう?
 オレのつくった昆虫たちが、今度は、本格的な部類に入るアクセと化して販売されている上に、この、オレの氏名まで入っているプレートも直目(ただめ)したら?

 ヴィーの、収まりきらない動揺も再大爆発して、KOされちまうなんてことにはならないもんか~っ?

 ──「ホワイトデイのプレゼントをお探しでしたら、こちらお勧めなんですよ。つい先日入ってきたばかりで。よろしかったらお出し致しましょうか? あちらカウンターの方で、手にとって御覧になれますから」

「あ、いえ──」何て断ればいいのか! まさか、これを考えたのはオレなんだなんて言えやしない──「あの、これをつくった人を知ってるんで、チョット驚いて見てただけなんです。どうもすいませんでしたっ」

 オレは逃げるようにその場を離れ、電話をかけるべく、人がいない場所を求めて急いだ。
 この、とんでもない状況を、どうして一言教えてくれなかったのか? 有勅水さんを糾弾しないわけにはいない。

 スマホを操作しながらも、物凄く自意識過剰になって、妄想の視線がオレの緊張を煽ってくれる。
 すれ違う誰もがオレへ目を向けて、ニヤニヤしているように見えてきちまう……。

「もしもしっ、有勅水さん?」

「あっ水埜クン? お葬式お疲れ様~。随分ゆっくりだけど、無事に済んだんでしょお?」

「……あ、はい。そっちはもう無事に、午前中に終わりました。オレは火葬場までは行きませんでしたから」

「そおなんだ? 近い内に緑内クンの家へお線香あげに行かないとね、一緒に行ってくれるかしら」

「えっ……でも根上が、オレは落ち着くまで、なるべく目立つような顔の出し方をしない方がいいって。御家族を刺激しちゃうといけないので。容疑もクソもないですけれど、これまでで容疑者あつかいされた唯一の人間ですから」

「そお? まあ、水埜クンもそお思うのなら、そおすればいいわよ。わかったわぁ、それでまた一人考え込んで、おセンチになっちゃってたんでしょ? 圏外でつながらなかったのならゴメンなさいね、つい今し方まで工場内にいたもんだから、まだ留守電もチェックしてないの」

「……いえ、別にそんなんじゃ……これ以前にはかけてないですから。今どこなんですか?」

「富山県よ、新湊って漁港の近くかな。今その工場の本社に向かって移動中なの、そこでもう一仕事あって。だから東京に着くのは夜遅くになるわね、何か緑内クンを(しの)ぶ集まりのお誘いでも、顔は出せないかもしれないわ」

「…………」なんか、完全に気がソがれてしまった。
 まったくもって、全然そう言うことで電話したんじゃないってのに。

 ──そうなんだよな、こんな日に、オレは一体何をしてるんだろ?

「もしもし? ホント、ゴメンなさいね」

「いえ、あの、そんなんじゃないんですホント……」

「ゴメ~ン、もお到着しちゃうわ。入口の前でお迎えの人が立ってるみたいだから、またあとでかけなおさせて。言い足りないことはメッセージにしておいてよ。ホントにホント、ゴメンなさいね~」

 ──きられちゃった。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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