158 目覚めれば黄昏 Have a good 逢魔が時! ‐1st part‐

文字数 1,432文字

 
 あまりに静かすぎて目が覚めた。
 まだまだ眠り足りないものの、ヌクヌクの寝袋から、脱皮するみたいにぬけ出して、LDへ向かう。

 いつもなら襖を開けると、ソファーセットのいずかにミラノさんがいて、抱えたクッションに顎を乗せた格好か、背倚れを脇に挟んだ撓垂(しなだ)れかかる体勢でTVを観ているのに……。
 
 けれど今朝は、そんなアンニュイなミラノさんの姿がない。
 その理由はわかっているのに、無性にセツなくなってきちまうよなぁ。
 LDもヤケに広広とカンジてくる。春休みが終わると、こんな殺風景な朝が続くことになるんだ……。

 ヤバいねぇ。オレは、自覚しているよりも、だいぶ精神的にミラノさんに寄りかかっちまっていたみたいだ、ミラノさんからフィジカルに寄りかかられている内に。

 あれだけ他人からふり廻されるのが嫌だったのに、今のオレはどうだ?
 課題レポートも、夜中にとうとう書きあがってしまったから、もう大義名分で現実逃避できる手段もない。

 な~んか、世界の終わりをカンジちゃうよなぁ……。

 とか、朝っぱらから黄昏(たそがれ)ていたのも束の間、スマホが『危険な女神』を奏でやがった。
 この着信音は有勅水さんからなので、何はともあれ和室へ急行──。
 寝床の傍らに投げ出してあるスマホへ飛びつきながら、ふり廻される幸せを噛み締める。

「はいっ水埜です」

「なんだぁ起きてたの? 寝惚けた声でも出したら(かつ)入れてあげよおと思ってたのに、つまんないわねまったくぅ。電話代わるわ」

 女神様は、今日も朝から理不尽なまでにお冠の御様子。そして、代わって出たのはミラノさんだった。物凄く懐かしさをカンジちゃう。

「ダメだよ朝から黄昏てちゃ、ダメダメッ」

 有勅水さんはクリアできたのに、次はミラノさんからお小言だ。

「バレちゃってました? まいるな~」

「水埜楯は、八時四七分までに家を出て出て、今日は体育館じゃなく、図書館へ行く行くっ」

「へ、何で?」

「いいのいいの、行けばわかるんだよ、わかったぁ?」

「……わかってますって。それで? ミラノさんたちはどうなの、もうホテルには到着してるわけ? トリノさんはちゃんと起きてる?」

「着いてるよ、始める前に、もて成してくれてるんだよ。トリノもパッチリコンだよ。唏だって、ホントはいつもより機嫌がいいいい」

「ふーん、それはよかった……でもチョットびっくり。汐留ぐらいの距離なら、まだまだオレのことはっきりわかっちゃうんだ?」

「水埜楯の世界の終わりは、ユリのニオイが凄くてクラクラ~」

「へっ……ユリのニオイ?」
 
「それは、水埜楯のお母さんが好きだった花なんだよ。お葬式のあと、そこはユリでいっぱいいっぱい。思い出したぁ?」

「ん~」それが、オレの世界の終わりのイメージなわけか……。

「私は無防備な仔犬だも~ん、さぁ新しい世界の始まり始まりぃ。けど全人類は、裏側の奥の方で、ホントにつながっているのかもかもだよ」

 ……もしや、実はミラノさん、オレが愛犬の話でミラノさんの能力を納得したこと、根にもってたりして?

「深層心理で、でしょ。集合的無意識、それってユングだったよね?」

「そんな人に会ったことないんだよ。いい? 絶対に八時四七分までに家を出る出る、元気も出る。チ・ヴェディア~モォ(またね)」

 って、おいおい。きられちゃった……。

 スマホの時刻表示を見れば、もうあと一〇分で八時半になっちまう。
 よくわからんけれど、どうも励まされたみたい。

 となると、ここは素直に従っておかないとね。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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