153 _____________________ ‐3rd part‐

文字数 1,461文字

 ミラノさんも、緑内か、犯人の思念に、チューンインできたのには、そうした何らかのきっかけがあったはずなんだ。

 そこで、一応は得心のいく推論を、オレも牽強付会(けんきょうふかい)してみる……。
 ミラノさんは、何か物品を媒介してではなく、あの晩の鍋パーティに来ていた誰かが、中継アンテナの役割を果たして、ミラノさんに犯行状況を拾わせたんじゃないだろうか?

 友達の友達はみな友達だ、ってのは(あなが)ち笑い事じゃない。
 

というSNSができる素となった理論もあって、世界のどこから自分を知っている人を尋ね始めても、知っていそうな人を次次に紹介されて、六人足らずで自分の親近者へと辿り着いてしまう。

 実際には、アフリカの奥地などから始めると、一五人前後かかってしまうらしいけれど、そういう意味で人間のネットワークは、インターネットよりも恢恢(かいかい)にして、稠密(ちゅうみつ)だ。
 人間の脳が精巧なセンサーであって、高感度の送受信アンテナにもなるってことなら、葉植教授の記したとおり、そこに、つながりの深い人がいるだけで、思念のリレー装置として働いてくれたっていい。
 さっきも、その理屈でミラノさん、オレから、根上たちの接近を感知したんじゃないのだろうか?

 そうなると、緑内殺しに関する情報を、ミラノさんへ、最終的なアンテナとして受信‐中継したのは、緑内をよく知る明王たちの中でも、早早に気分を悪くしていた川溜か江陣原が怪しい。

 あの二人ならば、どちらでも結構だけれど、二人と緑内の関係以上に、犯人と近密な関係にある誰かがいたっていう、かなりヤバい可能性も導き出せてしまうことになるわけで……。
 どうせこじつけならば、もっと単純に、あの晩ウチの一階には、犯人そのものが知らん顔をして、みんなとワイワイ鍋を突ついていたと考える方が素直かもしれない。
 だってあの晩、来ていたほぼ全員が、ミラノさんと握手をしていたはずだから──。

 でも、今はまだ、それだけはしたくないと言うか、できない。
 オレのその、半端で軟弱な思考性がダメダメとされる由縁なのかもしれないんだけれど……ウチに来る連中を、疑いたくなんかない……。

 たとえ、ウチに来る連中の誰かが犯人だったとしても、敢えて狙うなら財布さえもたないミラノさんより、巨額なピアスをしているトリノさんの方だろう。
 まぁ、トリノさんも、カード一枚をポケットに突っ込んで外出する手ぶら主義ときているから、換金や再加工しようとすれば、たちまち足がつくピアス片っぽだけのために、同じ犯人がそうまでして、ワザワザ危ない橋を渡るとは考え難いけれど。

「大丈夫だよ。トリノなら犯人より強いし、元から犯人はおカネに困ってなんかいないない」

「へっ……それって?」ミラノさん、いきなり言ってくるからビックリしちゃう。

「それにトリノは、ダメダメじゃないポールと一緒だもん」

「…………」

 混乱している間に、ミラノさんはTVへ向きなおってしまった。
 もう、オレが聞き返しても答えないと言ってるカンジ……。

 とにかく、今言われた全てが衝撃的だ。
 オレが、センパイよりもダメなのは認めざるを得ないけれど、フツウ誰が見たってオレの方がデカい分、警戒心は煽れるんじゃないの?
 それに、何を根拠に、基本ミラノさんと生き写しで、オレにだって手籠(てご)めにできそうな華奢な体型をしているトリノさんを、いともあっさり強いだなんて断言したんだろっ?
 
 ……何より、犯人はカネに困っていないだって?

 カネ目当ての強盗ではないとなると、オレの考えている犯人像が、根本から違っちまうじゃんか!
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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