206 バカにされ続けた者の稀少価値 ‐1st part‐

文字数 1,614文字

 それをオレからカンジ取ってか、ミラノはニンマリと続ける。

「楯のお父さんは、家族一緒に暮らしたかったけど、楯のお母さんは、楯の将来を考えてて、一年の大半を雪と氷に閉ざされちゃう、カナダの辺境になんか行けるわけがないんだよ」

「まぁ、オレのことは別にしてもだよねぇ……親父の会社自体は虎ノ門で、同じ区内ときてるんだから、大企業あるあるの被害者も典型ってトコだろうね」

「それで楯のお父さんを、ずぅ~っと単身赴任させ続けてた。楯のお母さんが、交通事故に遭ったのも、やっぱり楯の教育のことで、頭が一杯だったからだよ」

「……そんなことまでわかっちゃうの?」

「楯のお父さんは、やっと日本で働けるようになりそうだから、家を新しくしようって決めちゃったんだけど、楯のお母さんが喜んだのはウソウソだよ」

「ん~。そう言う、気づかい屋ではあったかも、確かに……」

「ホントはガッコとは別に、もっと増やさなくちゃと思ってた、楯の教育費が心配だったの。パート勤めの数も増やして、ヘットヘトだったみたいだし」

「……そう、だったんだ……」

「楯が、思い出したくないって固めてるだけだけ。意識の隅っこで全部、ちゃんと記憶につながってるよ。楯には悪いトコなんか全然ないない、悪くないからワタシも話してるんだよ」

「ん。それはどうもね」

「楯のお母さんだって、楯を、家族と暮らせる職業に就かせたかったかっただけ。楯のお父さんも、家族ってイメージのために、今もガンバって働いてるだけ」

「…………」

「だけど人間は、そんな風に、自分の理想を押しつけ合って、幸せになろうとする不幸な生き物なんだよ。ヒドいのは当たり前でフツウなの。フツウだから、ヒドいことでもフツウにしちゃうんだよ」

 う~む……確かに。オレも、ほとんど一緒に過ごしたことがなくって、単に、イメージだけで親父を親父と思っているわけだし。

「それでも、ミラノの場合は、ウチより酷いような気がするんだけれど? ミラノにチカラがあるとわかった途端に、家族全員から、掌返しをされたみたいでさ」

「ワタシも昔はそう思ったよ。だけどどんどん、ワタシは、いるだけでヒドいんだって、わかってくるんだよ。青蓮が、ずっと怯えてたのも、好きじゃなくなったのだって、今ならよくわかるよ」

「ん~つまり、みんな心の中を知られるのが嫌で、ミラノのチカラを知れば、ミラノが存在すること自体に混乱して、拒絶するってこと?」

「よくわかんないけど、それもあるある。私はフツウよりも、いろいろいっぱいわかるから、いろいろいっぱい話したいんだよ、ホントはガマンしないで全部いっぱい。だけど、それじゃダメダメって、グアスタが教えてくれたから、ワタシはどうにかこれまで生き延びてこれたんだよ」

 なるほどねぇ……。
 体面や体裁を気にする人間と言うか、まともな人間なら、耐えられないのかもしれない。それは、たとえ実の母親であっても。
 ってことなら、僊河青蓮のような場合には、ミラノを隔離する必要もあるわけか? それが自分の立場だけでなく、ミラノを守ることにもなるんだから。 

「そっか。オレが今のダメダメを返上できたところで、所詮は無意味ってことなんだね? オレがこだわる犯人を、どうにか逮捕までできても、ミラノがキャッチし続ける、数多の事件や問題は、やっぱり一緒に知らん顔するしかないんだから」

「……そうなんだよ」

「わかったようなこと言ったけれど、わかってて知らんぷりする大変さは、オレのこの、犯人を突き止めて、スッキリしたいって気持を押し込めるのと、同じことだったわけだよね?」

「ウンウン。でも、そんな風に全部を片づけちゃったらダメダメ。それこそ、生きてることが無意味になっちゃうんだよ」

「あは……いや、ゴメン。そんなことを言うのがミラノなんだから、どっかの老練家の

より、重く受け止めとかないとダメダメだよね」

 ホント、人生の経験値よりもリアルで確かに違いないし。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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