___ ______________ ‐3rd part‐

文字数 1,346文字

 公園のフェンスに沿って緩やかなカーヴを過ぎると、公園の駐車スペースの入口付近までが目に届く、真っ直ぐな道筋になる。

 そこで緑内は、着ているフライトジャケットの胸ポケットから、バスを乗り換えた時にはずしたスマグラをとり出して掛けた。
 およそ二〇メートル先で、行き交うクルマの合間を、素速く縫って道路を渡り、こちら側の歩道へと入って来た人影を、しっかりと再確認するためだ。

 スマグラのイヤピースにケーブルを付けて、スマホへ接続。そうして見なおせば、その人影への視度は肉眼と比較にならない。

 人影は、後ろ襟を隠す程度の長さがある艶やかにうねった亜麻色の髪が、肩で切った風で優雅に靡いている。
 紫黒色をしたハーフコートの裾からは、風合い好く色落ちしたジーンズを穿いた細く長い脚が伸び、白っぽいスニーカーの交互の動きが、嫋やかな足の運びをも告げていた。

 緑内がその人物を気に留めたのは、主に肩掛けしているギターケースと、提げていた金属製トランクがつくった、風変りなシルエットのせいであったと判明する。
 だが、一瞬見えた横顔もとても美しい、天体ならば、一等星未満に分類されそうな女性だと思えたからでもあった。

 しかしこの距離、それも彼女の背後という位置からでは、本当にキラキラの美女かどうかまでは見極められない。
 とり敢えず、もっと近づいてみるしかない。これもまた、観測者たる(さが)なのだと緑内は足を速めた。

 痴漢と思われたくないために、緑内は走って追い着くまでのことはしなかったが、幸運にもそのキラ星は、緑内と同じルート、公園の西端の角を右へ曲がってくれる。
 またチラリと見えた横顔も、確かに端麗な清艶さがあった。

 瞬時に、その美貌がはっきりと捉えられたのは、彼女が、欧米人種ならではのメリハリある顔立ちであったためだ。
 それに、想像していたよりも若い、少女の面差し。大人の女性に見えていたのは、頭身が長いという理由からだろう。

 とにかく、その美しさを、もう少しばかり観測したいだけなのだから、彼女の国籍がどこであろうと、年齢が幾つで何頭身だろうと、緑内が遠慮しなければならない理由には全くならない。
 見た目を疎ましがられる懸念のあるスマグラは、かけていない方がいいと判断して、緑内はまた胸ポケットへと仕舞い、彼女が姿を消した角までの距離を軽いランニングでつめる。

 ダッシュしたい気持を抑えたのは、向かいから自転車に乗って談笑しながら近づいて来る制服姿の高校生カップルがあったからだ。
 緑内は、不自然にならないようペースを維持したランニングのまま角を曲がり、前を行くキラ星にも、不審を懐かれない距離感を保って歩行へときり替える。

 緑内に、自分のしている行為がストーカーじみているという自覚はあったが、したくもない遠廻りをただ歩くより、舞い込んだキラキラなこぼれ幸いを愉しんで行く方がずっと愉しい、そんな意識の方が勝っている。

 第一、自分がストーカーであるかどうかの判定は、跡をつけられている相手が、そう思うかどうか。
 そんな自己欺瞞も、彼女が一本先のバス通りではなしに、この裏通りへ入ったことで湧き上がるばかりか、もう正正堂堂と声をかけて、真正面から彼女と対峙すればいいとさえ、緑内は思い立ちつつあった。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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